バイトが終わったのは23時を少し過ぎていた。

「疲れたぁ、、、、」

携帯を見ると、こはるからメッセージが来ていた。

───22時50分

おつかれ!

バイト忙しくなくて、終電に間に合いそうなら家来れる?

お酒あるよ♪

─────────

メッセージを見て一気に疲れが飛ぶ。

「んじゃツマミでも買って行ってやるか」

俺は携帯をしまうと、駅のコンビニへ向かって歩き出した。

───23時35分

俺は片手に、ツマミと、こはるが好きなスイーツが入ったレジ袋を持ってアパートの前まで来ていた。

「あー、まさかこはる寝てんのかな?」

何回か連絡をしたがメッセージアプリで既読がつかない。

まぁ、チャイム連打すれば起きるだろ。なんて考えながらこはるの部屋へ行くために階段を登り始める。

アパートは3階建ての12部屋あり、4部屋が横並びの縦に3階と言った感じだ。こはる部屋は3階の1番奥の部屋。304号室。

夏ならそこそこ汗をかく階数だ。

俺は、こはるの部屋の前につくとチャイムを鳴らす。

しばらく待ってもこはるは出てこない。

何度か呼び鈴を鳴らすも全く音沙汰無しだった。

「やっぱ寝てんのか?」

俺は、ドアノブにゆっくり手をかける。

「ん?鍵かかってねぇじゃん。無用心すぎだろ。」

ドアを引くと簡単に開いた。玄関に足を踏み入れて、中の様子を探るも電気はついているが全くもって室内は静かだった。

「やっぱ寝てんのかな」

俺は、音を立てないようにゆっくり靴を脱いで部屋まで歩いていく。

このアパートが単身者向けで作られているため、部屋はどれも1Kで、細長い作りをしている。
玄関を開けると奥に部屋がある。そこが生活スペースになる。もちろん部屋の前には扉があるため中は見えないが。そして部屋に行くまでにキッチンや、風呂場、トイレなどが各々別れている感じだ。

ドアの前に着いた俺は部屋へ通じるドアに手をかける。

「こはるー、、、」


小さい声でこはるの名前を呼びながら扉を開けた。

「うっっっ、、、、、、、、」

扉を少し開けるとツンとした鉄のような匂いが鼻を貫く。


「この匂い、なんだよっ、、、、、、」

手で鼻を押えて、扉を開けた部屋の中に橋を踏み入れた瞬間俺は頭が真っ白になった。

「えっ、、、、、、、、、、、」

俺が見る先には、血溜まりに横たわるこはるがいた。

「はっ、えっ?」




───ガシャ

力の抜けた手のひらからコンビニの袋が落ちる音がした。

心臓が目眩を起こすくらいバクバク言っている。状況が理解出来ない。思考が追いつかない。

「こっ、こはる、、、、、、、、、、」

俺は、フラフラと1歩1歩こはるに近づく。血溜まりなんて気にならなかった。生暖かいこはるの血液が白の靴下を赤く赤く染めていく。

どう見ても、もう死んでいる。

もがき苦しんで充血したこはるの生気のない瞳がおれを、見つめていた。

「こはる!嘘だろ?」

俺は構うことなくこはるを抱き抱える。

まだ暖かい。体温が微かに残っている。

───嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!

頭の中でグルグルと何かが回っている。


胸にはナイフが刺さっており、そこから大量の血が出ているようだった。

誰かに殺されたのだ。

分からない。こはるは殺されていいような人間じゃない。傍にいるだけで陽だまりにいるみたいに暖かくなるような明るくて優しい人間なんだ。

俺は自然と涙が溢れる。

「やめてくれ。死なないでくれよ!こはる!お願いだから!」

俺はボロボロとこぼれ落ちる涙を拭う事もせずこはるを抱きしめる。






───グサッ!!






「うぐっっ!」

腹部に激痛が走る


俺は、こはるを抱いたまま床に倒れ込んだ。

直ぐに何者かに刺されたことが分かった。

仰向けに倒れ込み、天井が視界に入る。

ぼやける視界の端に全身黒い格好をした男が立っていた。顔も分からない。黒いマスクをしていた。たが体格で男とわかった。

男はそのまま俺を見下ろしている。
ナイフからはポタポタと俺の血痕が落ちている。

「お前が、、、、こはるを、、、、」

力が抜けていく。視界はますますボヤけていく。

「こはるは僕のものだ、僕のものだ!僕のものだぁぁぁ!!!」

男は、錯乱しているようでそうやって叫び続けている。

「くそっ、、やろ、、、、、、う、、、、、、、、」

不思議と熱い、痛いは消えていた。

俺は、最後に力を振り絞ってこはるの方を向く。

「こは、、、、る、、、、、、、、、守れなくて、、、、、、ごめん、、、、」







俺の心臓は静かにとまった。

───4月30日 23時59分。

春はまだ続いている。