着いてすぐ向かったダイニングには既にお茶の用意。アンティークの茶器にティーコゼーに包まれたポット。



「まさか波留が同じ大学に入るとは思わなかった」


お手伝いさんがアッサムティーにミルクを注ぐのを眺めながら声をかける。


「父さんの母校だから」

ね?と波留は相槌を求めるように上座に座る父を見た。



日本の最高学府にだって余裕で入れる弟が、有名校と言えなぜ私立に、と忌々しさがバレないようにザッハトルテを口に運ぶ。

胸がムカムカして食欲はなかったが、中のアプリコットジャムがいい塩梅で食べ始めると不思議と食が進んだ。

昔馴染みのお手伝いさんは、滅多に実家に寄り付かない私の好みも熟知している。




「ところで、今日は私に何の御用でしょうか?」



先ほどから一言も発さない父は、私の質問にもやはり答えず態とらしくため息をこぼした。
その仕草一つにさえ、弟と比べて出来の悪い姉への侮蔑が含まれていて苛立ちが迫り上がってくる。



つーか、喋んないならわざわざ呼ぶな。





「姉さんにお願いがあってさ」


寡黙な父に代わって響く柔和な声。
この重い空気なんて微塵も気にしない朗らかな声色が、なお私の気に触るのを本人は気付いていないのだろう。