弟は昔から出来が良かった。

勉強もスポーツも何でも出来て、見た目も飛び抜けて麗しいのに、それを鼻にもかけず大層人に好かれた。


比べて私は何をさせても平々凡々。
親戚に可愛いと褒められた顔も、弟を前にしたら社交辞令だってバカでも分かる。


唯一の取柄は愛嬌の良さだったが、それも弟に比べ劣っているのは間違いなく、いつからか虚しさが勝って笑顔さえ面倒になった。

気付いたら私の周りからは人が離れていった。


月とすっぽん。鯨と鰯。雪と墨。
本当に同じ血が通っているのかと疑いたくもなる。




友好関係すらまともに築けない自分に嫌気がさすが、それを認めたくない思いの矛先は弟に向いた。

嫉妬と一言で言うには複雑すぎる感情は歪に形を変え、麗しい弟への嫌悪感に変化する。



いい子(・・・)すぎて(・・・)気持ち悪い。



腹いせに少し意地悪をしても、分かっているのかいないのか。
「姉さん、姉さん」といつも通りの柔らかな笑み。


この完璧な弟は、なぜか昔から私によく懐いた。




特別な弟の特別な私。

それを煩わしくも振り解かなかったのは、偏に孤独だったからと言っても過言ではない。

我ながらよく拗らせたものだと思うが、歪な姉弟関係は今もずっと続いている。





「波留、元気だった?」

劣等感を飲み込んで、私は優しい姉のふりをする。


出来るなら、その綺麗な顔に傷の一つでも付けてやりたい。
そんな思いは欠片も感じさせずに、ニコリと練習した通りの笑顔をみせた。



「私も会いたかったよ」