人間失格と斜陽、女生徒、ついでにヴィヨンの妻を読破したころ、太宰治が5回以上も自殺未遂を繰り返し、最期にはある女性と心中したことを知った。

 誰かといっしょに死ぬ、という事実にぞっとすると同時に、あたしはなぜか、心中、という言葉自体の美しさにとらわれるようになった。

 心の中、と書いて心中。肉体的に繋がるには限界があるけれど、心で繋がって、肉体と心の境界を曖昧にすれば、愛する人ともっと深いところで繋がれるのかもしれない、だなんて、そんな突飛な想像をするようになったのだ。


「零は、自分がいつか死ぬ事実に、おそろしさを感じたことはある?」


 火曜放課後の図書室はぜんぜん人が来ないから、そのうちあたしたちはずっと図書準備室に閉じこもるようになった。誰かが来たときだけ、零がカウンターに出て応対をするという、なんともやる気のないムーブメント。

 生真面目な図書委員だった零が、あたしのせいで不真面目になるところも、まあ言ってしまえば、すこし愛おしく感じていた。


「ぼくは、全然こわくない」

「こわくないの?」

「うん。あまり生に執着がないのかも」


 たしかに彼は少食だし、不眠症だとも言っていた。

 本の虫、という言葉通りで、彼は本を読むことで栄養を摂っているのかもしれない。

 そんな戯言を信じてしまいそうになるほどに彼は不健康そうだったし、押さずともひらり屋上から飛び降りてしまいそうな危うさがあった。