この頃のあたしは、2人の男に陶酔していた。今在零と太宰治である。すなわち、あたしは重たい中二病を患っていた。

 すこし遅めの中二病かつ思春期をこねくりまわした高校生のあたしは、友人から受け取った些細な言葉に傷ついたり、なにかにつけて付与される点数で自分の人格を否定された気持ちになったりしては、先生へのオハヨウゴザイマス、よりも気軽に、死にたい、と口にするようになった。

 まあ、正直イタいでしょ? これは古文でいう「かたはらいたし」に通ずる痛さだ。もちろん太宰の影響だけれど。


「睡、こっち来て」

「ん、っ……」


 そしてあたしが陶酔するもう一人の男、今在零は、人畜無害そうな顔をしているくせに、きちんと大人びた行為を知っていた。

 図書室のカウンターのパイプ椅子に座ったまま、零があたしの首の後ろを掴む。カウンター越しにぐいと引き寄せられれば、抵抗する間もなく唇が重なり、彼の舌が口内を掻き乱す。

 知らない感覚。これを知っている人、それを教えてくれる人が、あたしにとっての大人だ。零は同級生だけど、先生が教えてくれない行為を教えてくれる。

 あたしは零とのキスを通じて、大人を知った。太宰からは痛みを知った。あたしはどんどん拗れて、世界を斜めから見る、痛々しい高校生になった。けれどあたしは、愛する男をまっすぐに追いかける、かわいい女子高生でもあった。