粗雑な口付けはあの人と何もかもが違う。乱雑に噛み砕かれた錠剤の欠片は星屑とは程遠く、砂利のような感触がした。喉奥に引っかかって、思わずすべてを吐き出しそうになる。

 詠はそんなあたしを許さない。大きい手を頭の後ろに回してあたしの動きを封じ、不快な感触を奥へ奥へと押し込んだ。


「っ、ん、」


 頭の中がパニックになって、思わず詠の胸を押す。細い見かけとは裏腹に、筋肉質な身体はびくともしなかった。むしろ、逃がさないと言わんばかりに、抱きしめる手を強められる。

 雑だ。あの人だったら、こんなふうにキスをしたりはしないのに。

 彼の唾液に混じった、眠りの魔法薬をむりやり飲み込むと、詠はやっと唇を離した。肩で息をしながら、詠を睨みつける。


「なにこれ。新手の嫌がらせ?」

「お見事」

「女の子に無理やりキスするなんて、最低」

「いいよ。おまえが幸せになるなんて、許さないから」


 だが、詠に何をされようと、あたしは彼に逆らうことができない。あたしは、彼の大切なものを奪ってしまったからだ。

 詠の唇の感触をふいに思い出す。近づいた身体に抑え込まれた頭部。その行為に何も感じないほど擦れているわけじゃないが、あたしと詠の関係は全く甘くない。むしろ、舌が痺れるほどに痛々しくて、苦いものだ。