心中に失敗する夢を見た。今週はこれで2回目だ。記憶に固執するのはあたしの哀しき性かもしれない。

 目覚めがひどく悪い。だが一度醒めたらもう夢には戻れない。夢は非可塑性の魔境に等しい。もういちど眠ることはむずかしかった。


「おい、起きろって」


 肩を力強く揺さぶられる感覚でしかたなく目を開ける。

 瞼を持ち上げて視界に入った人物の顔が、さきほどの夢のなかで嫌というほどに見た死骸の顔と一致して、ひ、と声が出た。

 だが冷静な頭はすぐに状況を把握してくれる。そこにいるのは、夢にいた彼とは別人である。


「無呼吸。おまえ、夢でも見てた?」

(れい)の夢」

「あっそ」


 目の前にいる男、(えい)は、あたしのそばからするりと離れると、我が物顔であたしの部屋の冷蔵庫を開け、中から水の入ったペットボトルを取り出した。

 そのままペットボトルが手渡される。言葉がなくても、「飲め」と言われていることは理解できた。

 それにしても、キャップを開けた状態で渡してくる器用さはどこで学んだのか。妙に女慣れしているところがなんとも腹立たしい。


「詠。あたしのこと、恨んでないの?」