「それで、どうして急にそんなこと聞いてきたの?」


 手元にある文庫本の目次を眺めながら、零が尋ねてくる。


「太宰が女の人と心中した記事をね、ネットで読んだから、それで」

「きみってほんと、太宰がすきだよね」


 彼の言葉には嫌味っぽさがなかった。視線を文庫本から離した彼はふいにあたしの後頭部をつかみ、引き寄せて髪の毛越しに額にキスをする。ただのスキンシップだ。


「一緒に死ぬなんて、ちょっとぞわぞわしちゃうよね」

「そう? ぼくはちょっと、良いなって思うけど」

「この文学かぶれめ」

「睡だっておなじでしょ」


 近い距離で見つめ合う。くく、と零が意地悪くわらう表情を独り占めできることが何よりうれしくて、むかつくから唇にキスをしてやった。






 それから、すこし困ったことになった。

 日常生活で登場する、ありとあらゆる行動の選択肢の中に、「死」がふつうの顔をして現れるようになったのである。