「小野上、進路希望調査出してないの、お前だけだぞ!明日必ず持って来いよ!!」
 
担任の先生が大きな声で言う。わざわざみんなに聞こえるように言わなくてもいいのに。

小さな声で返事をすると、今度は友達が

「えー、まだ優波出してなかったのー?てか、今からカラオケ行くけど優波も来る?」

と私に声をかける。気分ではなかったので、お誘いを丁寧に断ってから教室を後にした。



悩みがあると、何となくどこかに行きたくなる。見慣れない景色や街並みを見るのは、いつも新しい発見があって楽しいものだ。

とはいっても、高校生の私が行ける範囲は限られるのだけれど。

バスか電車の一日乗車券を買って、限られた範囲の中でもいろいろな場所を訪れるのが、私の唯一の趣味みたいなものだ。



近頃今後の進路について迷っていた私は、特に何も考えずに乗車券を買って、電車に乗り込んだ。

学校で借りてきた小説を片手に、車窓から見える景色を眺めたりする。

話のきりの良いところで、そのままふらっと電車を降りて街を散策するのだ。

今日降り立ったところは、幼い頃に何度か来たことのある商店街。

ずいぶん変わったなあ、としみじみ感じながらゆっくり歩く。

昔はもっと活気があった気がするけれど、今ではシャッターが目立っていて人通りも少なく、閑散としていた。

ふと、通りの脇道に目を向ける。

少し大通りから外れてみよう、そう思って足を運ぶと、その奥に、昭和を思わせるレトロな外観の楽器店が姿を現した。

私は、吸い寄せられるように店の中へ踏み出した。