そう簡単に潰せるような脆弱な組織ではないし、ずっと一定の場所にいるわけではないから居場所を知られていても害が及ぶことはない。
でも研究に関わっている人間が出入りするなんて、土足で自分の居場所を踏み荒らされているような感じがして嫌だ。
シャロンの方を見ると、私よりも嫌そうな表情をしていた。
「…お前さぁ、アリスに気ぃあるんじゃないのぉ?」
「ん?どうして?」
「こうして俺とアリスの邪魔しに来てるしぃ」
「まぁ、確かに君達2人が仲良くしてると羨ましくなるね」
「…それ宣戦布告って捉えて良いわけぇ?」
「いや。そうじゃない。アリスが羨ましいって話さ」
「はぁ?」
「ほら、シャロン君って女の子みたいな顔してるじゃないか。事実上男でも、君なら是非口説きたいなと思ってるんだ」
「………」
す、凄い…。あのシャロンを黙らせるなんて。
シャロンのこと真顔でからかうの好きよね、この人。…それとも本気だったりするのかしら。
私は軽く咳払いをし、ジャックの方を見た。
「――悪いけど、帰ってくれるかしら。そして二度と来ないで」
私の冷たい声音にジャックは少し驚いたような顔をし、その後ふっと笑った。
「へぇ、どうして?俺のことは嫌い?」
「クリミナルズでもない人間がこの場所に来るのは非常識だと思わない?」
シャロンもどうしてこいつをここに入れたのかしら?
ジャックとシャロンは何かを隠してるようにも思える。
何を隠しているのかは分からないけれど、とにかくジャックのような人間をここに入れるわけにはいかない。
「大丈夫だよ。こいつ、アリスがいない間も何回かここに来たけど何もしなかったしぃ」
「…ちょっと、どんだけ緩いのよ」
「脱獄者でしょお?立場的には俺らと似たようなモンだって」
シャロンがこんなことを言うのは初めてだ。
やっぱり、この2人には何らかの繋がりが…、………。まさか。
「………好きなの?」
「はぁ?」
「……ジャックを」
一瞬にして場の空気が凍る。
いや、私も1つの可能性として聞いてみただけで本気でそう思っているわけでは…。
「…教育、し直してあげよっかぁ?」
「……っ、」
本能的に逃げようとしたけれど、それより早くシャロンが私を掴んで自分が座っていたソファの上に押し倒した。
テーブルを挟んだ向こう側では、ジャックがひゅう、と口笛を吹く。
反抗は許されず、私の上にシャロンが乗る。
「アリスは俺の何を見てるわけぇ?」
シャロンを押し離そうとした手は、いとも簡単に押さえ付けられた。
だってジャックにさっき口説きたいとか言われてたし…同性愛ってそう珍しいものでもないでしょう?
「本気でそんなこと思ってんなら、――喰い殺すよ」
見下ろす眼が野性的なそれへと変化する。ぞくりとした感覚が背中を走った。
降参、という思いを込めてシャロンを見上げる。
その視線に満足したのか、シャロンは私を押さえ付ける手の力を少しだけ緩めた。
「で、バズにまた何か教えてもらうんだって?」
「…え、ええ…」
「そんなんしてないで、ずっと俺と2人きりでいればいいのにぃ」
「そういう無責任なことを言う貴方は嫌い。私はしたいことを好きなようにするわ。っていうか、いい加減退いて。そろそろみんな来る頃よ」
もう1度手に力を入れてみるが、シャロンはこちらを離す気はないようで。
どうしようかと迷っていた数秒後、部屋のドアがノックされた。
き、来た…!
「ちょ…退い、」
「いいよぉ、入って」
この角度からドアは見えないけれど、ガチャリと開く音だけは聞こえる。
そして、次の瞬間。
「きゃああああっ!何してらっしゃいますの、シャロン様!」
私たちの状態を見たキャシーの金切り声が部屋に響く。
「ん~?内緒ぉ」
語尾にハートマークが付くくらいのぶりっ子ボイスでそう言って、私の上から退くシャロン。
退くならもう少し早く退いてほしかったわ…私の嫌がることするの本当好きよね、こいつ。
「大胆…」
キャシーの後ろからやってきたバズ先生が、ぼそりと言った。違う。
「別に何もしてないから、誤解しないで。…ヤモは?」
『ココだ!』
ソファから起き上がろうとした時、近くから聞こえてきた機械音。
周りをキョロキョロ見回した後、もしかして…と思い、テーブルの裏を見ると。
『フッフッフッ…どうだ!分からなかったダロ?』
案の定、ヤモがそこに張り付いていた。いつからいたのよ…優秀なのか何なのか。
「ストーキングの才能があるわね…」
『…!?』
愕然とするヤモ。一応褒め言葉だったんだけど。
私はメンバーが揃ったということで立ち上がり、シャロンの邪魔にならないようこの部屋の一番端にあるテーブルに移動しようとした――が。
バズ先生が動かない。
その視線の先にはジャックがいる。
と、次の瞬間。
ジャックの首筋にナイフが当てられていた。
持ち主はバズ先生。
優雅に座るジャックを敵意剥き出しの目付きで見下ろしている。
「リーダー。この人、数年前話題になった詐欺師のはずだよ。何でここに?」
ジャックが何者であるか気付いたのだ。
まぁ、そりゃそうなるわよね。
「彼は俺のお客さんだよぉ?ナイフ下ろして」
「仲間になるの?」
「さぁ?ならないんじゃなぁい?」
「…あんたは気楽すぎる。この人は捕まる前、何人もの人を騙してた男だよ。ボクたちが騙される可能性も…」
「―――…ナイフ下ろせって言ってんだけどぉ?」
シャロンの低い声音に、ようやくナイフをポケットにしまったバズ先生。
まだ納得していない様子だ。
私もジャックが出入りすることには納得していないけど…シャロンが認めているのだから私たちからは何も言えない。
「こいつとは事情があってこれからも関わらざるを得ないんだよ。…アリスの研究のことでさぁ」
「……」
バズ先生は黙り込んだ。
私が過去にどんな研究を受けていて今どういう目的を持っているかは、ここにいる全員が知っている。
私は今年の春――リバディーの秘書としてスパイ活動を始める少し前に、19歳の誕生日を迎えた。
私が完全体になるのは20歳前後と予想されているから、ジャックから貰った薬のおかげでそれまでの期間が半年延びたとはいえ…そう時間はない。
脱獄者だろうが得体の知れない男だろうが、そう考えると貴重な情報提供者だ。
不穏な空気の中、甘い匂いを漂わせながら笑うジャック。
「安心しなよ、この組織には何もしない。シャロン君のことは気に入ってるしね」
ジャックはシャロンにウインクしたが、シャロンは嫌そうな顔をしただけだった。
シャロンがジャックにここへの出入りを許可してるのは私の為なのかもしれない。
少しでも多く研究の情報を集めようとしてくれてるんだろう。
でも研究に関わっている人間が出入りするなんて、土足で自分の居場所を踏み荒らされているような感じがして嫌だ。
シャロンの方を見ると、私よりも嫌そうな表情をしていた。
「…お前さぁ、アリスに気ぃあるんじゃないのぉ?」
「ん?どうして?」
「こうして俺とアリスの邪魔しに来てるしぃ」
「まぁ、確かに君達2人が仲良くしてると羨ましくなるね」
「…それ宣戦布告って捉えて良いわけぇ?」
「いや。そうじゃない。アリスが羨ましいって話さ」
「はぁ?」
「ほら、シャロン君って女の子みたいな顔してるじゃないか。事実上男でも、君なら是非口説きたいなと思ってるんだ」
「………」
す、凄い…。あのシャロンを黙らせるなんて。
シャロンのこと真顔でからかうの好きよね、この人。…それとも本気だったりするのかしら。
私は軽く咳払いをし、ジャックの方を見た。
「――悪いけど、帰ってくれるかしら。そして二度と来ないで」
私の冷たい声音にジャックは少し驚いたような顔をし、その後ふっと笑った。
「へぇ、どうして?俺のことは嫌い?」
「クリミナルズでもない人間がこの場所に来るのは非常識だと思わない?」
シャロンもどうしてこいつをここに入れたのかしら?
ジャックとシャロンは何かを隠してるようにも思える。
何を隠しているのかは分からないけれど、とにかくジャックのような人間をここに入れるわけにはいかない。
「大丈夫だよ。こいつ、アリスがいない間も何回かここに来たけど何もしなかったしぃ」
「…ちょっと、どんだけ緩いのよ」
「脱獄者でしょお?立場的には俺らと似たようなモンだって」
シャロンがこんなことを言うのは初めてだ。
やっぱり、この2人には何らかの繋がりが…、………。まさか。
「………好きなの?」
「はぁ?」
「……ジャックを」
一瞬にして場の空気が凍る。
いや、私も1つの可能性として聞いてみただけで本気でそう思っているわけでは…。
「…教育、し直してあげよっかぁ?」
「……っ、」
本能的に逃げようとしたけれど、それより早くシャロンが私を掴んで自分が座っていたソファの上に押し倒した。
テーブルを挟んだ向こう側では、ジャックがひゅう、と口笛を吹く。
反抗は許されず、私の上にシャロンが乗る。
「アリスは俺の何を見てるわけぇ?」
シャロンを押し離そうとした手は、いとも簡単に押さえ付けられた。
だってジャックにさっき口説きたいとか言われてたし…同性愛ってそう珍しいものでもないでしょう?
「本気でそんなこと思ってんなら、――喰い殺すよ」
見下ろす眼が野性的なそれへと変化する。ぞくりとした感覚が背中を走った。
降参、という思いを込めてシャロンを見上げる。
その視線に満足したのか、シャロンは私を押さえ付ける手の力を少しだけ緩めた。
「で、バズにまた何か教えてもらうんだって?」
「…え、ええ…」
「そんなんしてないで、ずっと俺と2人きりでいればいいのにぃ」
「そういう無責任なことを言う貴方は嫌い。私はしたいことを好きなようにするわ。っていうか、いい加減退いて。そろそろみんな来る頃よ」
もう1度手に力を入れてみるが、シャロンはこちらを離す気はないようで。
どうしようかと迷っていた数秒後、部屋のドアがノックされた。
き、来た…!
「ちょ…退い、」
「いいよぉ、入って」
この角度からドアは見えないけれど、ガチャリと開く音だけは聞こえる。
そして、次の瞬間。
「きゃああああっ!何してらっしゃいますの、シャロン様!」
私たちの状態を見たキャシーの金切り声が部屋に響く。
「ん~?内緒ぉ」
語尾にハートマークが付くくらいのぶりっ子ボイスでそう言って、私の上から退くシャロン。
退くならもう少し早く退いてほしかったわ…私の嫌がることするの本当好きよね、こいつ。
「大胆…」
キャシーの後ろからやってきたバズ先生が、ぼそりと言った。違う。
「別に何もしてないから、誤解しないで。…ヤモは?」
『ココだ!』
ソファから起き上がろうとした時、近くから聞こえてきた機械音。
周りをキョロキョロ見回した後、もしかして…と思い、テーブルの裏を見ると。
『フッフッフッ…どうだ!分からなかったダロ?』
案の定、ヤモがそこに張り付いていた。いつからいたのよ…優秀なのか何なのか。
「ストーキングの才能があるわね…」
『…!?』
愕然とするヤモ。一応褒め言葉だったんだけど。
私はメンバーが揃ったということで立ち上がり、シャロンの邪魔にならないようこの部屋の一番端にあるテーブルに移動しようとした――が。
バズ先生が動かない。
その視線の先にはジャックがいる。
と、次の瞬間。
ジャックの首筋にナイフが当てられていた。
持ち主はバズ先生。
優雅に座るジャックを敵意剥き出しの目付きで見下ろしている。
「リーダー。この人、数年前話題になった詐欺師のはずだよ。何でここに?」
ジャックが何者であるか気付いたのだ。
まぁ、そりゃそうなるわよね。
「彼は俺のお客さんだよぉ?ナイフ下ろして」
「仲間になるの?」
「さぁ?ならないんじゃなぁい?」
「…あんたは気楽すぎる。この人は捕まる前、何人もの人を騙してた男だよ。ボクたちが騙される可能性も…」
「―――…ナイフ下ろせって言ってんだけどぉ?」
シャロンの低い声音に、ようやくナイフをポケットにしまったバズ先生。
まだ納得していない様子だ。
私もジャックが出入りすることには納得していないけど…シャロンが認めているのだから私たちからは何も言えない。
「こいつとは事情があってこれからも関わらざるを得ないんだよ。…アリスの研究のことでさぁ」
「……」
バズ先生は黙り込んだ。
私が過去にどんな研究を受けていて今どういう目的を持っているかは、ここにいる全員が知っている。
私は今年の春――リバディーの秘書としてスパイ活動を始める少し前に、19歳の誕生日を迎えた。
私が完全体になるのは20歳前後と予想されているから、ジャックから貰った薬のおかげでそれまでの期間が半年延びたとはいえ…そう時間はない。
脱獄者だろうが得体の知れない男だろうが、そう考えると貴重な情報提供者だ。
不穏な空気の中、甘い匂いを漂わせながら笑うジャック。
「安心しなよ、この組織には何もしない。シャロン君のことは気に入ってるしね」
ジャックはシャロンにウインクしたが、シャロンは嫌そうな顔をしただけだった。
シャロンがジャックにここへの出入りを許可してるのは私の為なのかもしれない。
少しでも多く研究の情報を集めようとしてくれてるんだろう。