「あ、あと陽くんもいる」
「陽…?」
「6階のメンバーへの細かい指揮をしてる人だよ。大まかな指示はぶらりんがするけど、それ以外の細かい指示は陽くんたちがしてるんだよ」
「へぇ…指揮官ってことね?“たち”ってことは、何人もいるの?」
「いや。陽くんと、チャロっていう人の2人だけ」
今あの奥のテーブルに行けばその陽さんを見られるってことか。
6階のメンバーが2人の人間によって動かされていると分かっただけでも十分だろうけど、折角だし会っておきたい。
「私はここからだと全然見えないし、近くに行ってみましょうか」
そう言って、人を避けながら奥のテーブルに近付いていく。
後ろでラスティ君がクスクス笑いながら付いてくるのが分かった。
どうせまた私のこと知りたがりだとか思ってるんだろう。
別に私が知りたがりなわけじゃなくて、スパイとして活動してるだけよ…なんて、言わないけど。
奥のテーブルに近付くと、ようやくエリックさんの膝の上に乗っているニーナちゃんが視界に入る。
そのテーブルの横に、サングラスの男が立っていた。
黒のタンクトップ。腕に火傷の跡がある。
髪型はツーブロックで、ラベンダーブラックのような色をしている。
歳は20代後半…30に近いくらいかしら。
見たところニーナちゃんとエリックさんの傍にはあの男しかいないし、あれが陽なんだろう。
「やっほーえりりん!この食堂に来るなんて珍しいねー」
と、ラスティ君が明るくエリックさんに話し掛ける。
ちょっと見て気付かれないうちに戻るつもりだったのに…。
「あぁ、ラスティか。……げ」
ラスティ君を見た後、私を見て嫌そうな顔をするエリックさん。
しかも私に向かって“……げ”って言いやがった。
「あ、アリスさん!ラスティさんも、こんにちは」
ニーナちゃんは、エリックさんの膝の上に乗ったままぺこりと頭を下げてくる。
帰ってきた時は受け付けにいたし…私が9階に行っている間に、エリックさんに食事に誘われたんだろう。
膝の上に乗るのはエリックさんが要求したことだとすぐ分かる。
あくまでもエリックさんではなくニーナちゃんににこりと笑い、陽の方に視線を向けると―――…私を見て固まっていた。
というよりは、驚いたような表情をしている。
「……?」
訝しげに見つめると、ハッとしたように笑顔を向けてきて。
「あぁ、はじめましてヤングレディ!思わず見とれちったわ」
不自然なほど自然に、肩に彼の手が回ってきた。
「名前なんていうの?」
「…アリスだけど」
「フーン、俺は陽っつー名前。よろしく」
「はぁ…」
何だろうこの、グイグイ来る感じは。
さっき驚いていたのは何故なのか聞きたいけれど、そんな暇すら与えてくれない勢いだ。
「新しいメンバー?6階の方には入ってねーはずだけど」
「僕らの秘書だよ」
私が答えるよりも先にラスティ君が答えてくれる。
「え?マジ?そういや新しい子入ったってチャロが言ってたなー。もっと早く挨拶しとけば良かったわ」
というか早く肩から手を退けてほしい…なんて思っていると、その手がいきなり下降した。
「……っ!!」
「おー、デカ。」
こ、こいつ…!!触る…いや、揉みやがった!!私の胸を…!!
全力で距離をとると、変態男はケラケラ笑う。
「アリスちん反応可愛いー。今般若みたいな顔したっしょ?」
般若みたいな顔のどこが可愛いんだ。
「特殊な趣味をお持ちのようで。いくら何でもいきなり触るのは無礼なんじゃないかしら?」
「触ったんじゃねーよ。揉んだんだ」
「何ちょっとキメ顔で言ってんのよ…!」
この男殴り倒してやろうか…なんて本気で考えていた時、陽の背後に1人の女性が現れた。
そして――変態男の頭を容赦なく叩く。
「いでッ」
「初対面の女の子にセクハラすんなバカ。その子困ってんでしょ」
「ひっでーな、こんなでかいのあったら誰でも触りたくなるだろー?まぁ俺はチャロの揉み心地が一番好きだけど。俺の手にスッポリ入るサイズっつーか?…いだだだだ」
“チャロ”と呼ばれた20代くらいの女性は、今度は変態男の頬を容赦なく抓る。
チャロさんは変態男と同じ黒のタンクトップで、スニーカーを履いている。
髪型はポンパドールと三つ編みをしていて、色はダークブラウン。
変態男とも仲が良さそうだし…いや寧ろ悪そうにも見えなくもないけど、多分これがもう1人の指揮官のチャロさんだろう。
チャロさんは変態男が黙ったところで、こちらを向いてきた。
「ごめんね。こいつこういう奴だから、あんま近寄らない方がいいよ。えーっと…アリスちゃんだっけ?はじめまして。アタシはチャロ」
「はじめまして、チャロさん」
できるだけ愛想良く振る舞うと、チャロさんはパァッと明るくなって。
「可愛い~!やっぱ職場には女の子なわけよ!ここやたらと男が多いからむさ苦しくって…おまけにこんな変態野郎もいるし」
“こんな変態野郎”と言って陽をチラ見する。
「んなこと言って、俺と話したくて来たんだろ?」
「やめてよね、おぞましい。アタシはニーナちゃんとボスがいたから来ただけ」
冷たい瞳で陽を見るチャロさんと、それに苦笑いする陽。
6階のメンバーの指揮官ってこんな人たちなのね…。
もっと厳しそうなイメージがあったんだけど、この様子だと6階のメンバーって意外とワイワイしてたりするのかしら。
そんなことを考えていると、不意にチャロさんがエリックさんに手を差し出した。
「こんばんは、ボス。直接会うのは久しぶりじゃない?」
エリックさんはチャロさんの手を取り、2人は握手する。
「あぁ、そうだな。報告書によれば、お前は更に腕を上げてきてるみたいじゃないか。優秀な幹部だ」
「そう言ってくれて嬉しいけど、アタシとしてはこれからまだまだ腕を上げるつもりでいるからよろしく。」
得意げに笑うチャロさん。
「楽しみにしているよ」
エリックさんも、挑戦的な笑みで返す。
「ひっでー。俺には何も言ってくれないんすか、ボス」
「お前も確かに優秀な働きぶりだが、態度が気に食わん」
「何すかそれ…!」
少し離れたテーブルにいる6階のメンバーらしき人たちがクスクスと笑う。
…この組織の人たちって結構愉快…というか、仲が良いみたいね。
私は暫くエリックさん達の会話を眺めていた。
この中で私だけが余所者。
表面上この組織の人間というだけで、実際は違う。
この楽しそうな様子を見ていると、そのことが少しだけ寂しく感じてしまう。
――“スパイに感情なんていらないんだよ?”
また、シャロンの声が脳内で木霊した。
「あ、そうそうアリスちん」
陽が声を掛けてきて、ハッとする。その呼び方どうにかならないのかしら。
「メアド教えてくんね?」
「陽…?」
「6階のメンバーへの細かい指揮をしてる人だよ。大まかな指示はぶらりんがするけど、それ以外の細かい指示は陽くんたちがしてるんだよ」
「へぇ…指揮官ってことね?“たち”ってことは、何人もいるの?」
「いや。陽くんと、チャロっていう人の2人だけ」
今あの奥のテーブルに行けばその陽さんを見られるってことか。
6階のメンバーが2人の人間によって動かされていると分かっただけでも十分だろうけど、折角だし会っておきたい。
「私はここからだと全然見えないし、近くに行ってみましょうか」
そう言って、人を避けながら奥のテーブルに近付いていく。
後ろでラスティ君がクスクス笑いながら付いてくるのが分かった。
どうせまた私のこと知りたがりだとか思ってるんだろう。
別に私が知りたがりなわけじゃなくて、スパイとして活動してるだけよ…なんて、言わないけど。
奥のテーブルに近付くと、ようやくエリックさんの膝の上に乗っているニーナちゃんが視界に入る。
そのテーブルの横に、サングラスの男が立っていた。
黒のタンクトップ。腕に火傷の跡がある。
髪型はツーブロックで、ラベンダーブラックのような色をしている。
歳は20代後半…30に近いくらいかしら。
見たところニーナちゃんとエリックさんの傍にはあの男しかいないし、あれが陽なんだろう。
「やっほーえりりん!この食堂に来るなんて珍しいねー」
と、ラスティ君が明るくエリックさんに話し掛ける。
ちょっと見て気付かれないうちに戻るつもりだったのに…。
「あぁ、ラスティか。……げ」
ラスティ君を見た後、私を見て嫌そうな顔をするエリックさん。
しかも私に向かって“……げ”って言いやがった。
「あ、アリスさん!ラスティさんも、こんにちは」
ニーナちゃんは、エリックさんの膝の上に乗ったままぺこりと頭を下げてくる。
帰ってきた時は受け付けにいたし…私が9階に行っている間に、エリックさんに食事に誘われたんだろう。
膝の上に乗るのはエリックさんが要求したことだとすぐ分かる。
あくまでもエリックさんではなくニーナちゃんににこりと笑い、陽の方に視線を向けると―――…私を見て固まっていた。
というよりは、驚いたような表情をしている。
「……?」
訝しげに見つめると、ハッとしたように笑顔を向けてきて。
「あぁ、はじめましてヤングレディ!思わず見とれちったわ」
不自然なほど自然に、肩に彼の手が回ってきた。
「名前なんていうの?」
「…アリスだけど」
「フーン、俺は陽っつー名前。よろしく」
「はぁ…」
何だろうこの、グイグイ来る感じは。
さっき驚いていたのは何故なのか聞きたいけれど、そんな暇すら与えてくれない勢いだ。
「新しいメンバー?6階の方には入ってねーはずだけど」
「僕らの秘書だよ」
私が答えるよりも先にラスティ君が答えてくれる。
「え?マジ?そういや新しい子入ったってチャロが言ってたなー。もっと早く挨拶しとけば良かったわ」
というか早く肩から手を退けてほしい…なんて思っていると、その手がいきなり下降した。
「……っ!!」
「おー、デカ。」
こ、こいつ…!!触る…いや、揉みやがった!!私の胸を…!!
全力で距離をとると、変態男はケラケラ笑う。
「アリスちん反応可愛いー。今般若みたいな顔したっしょ?」
般若みたいな顔のどこが可愛いんだ。
「特殊な趣味をお持ちのようで。いくら何でもいきなり触るのは無礼なんじゃないかしら?」
「触ったんじゃねーよ。揉んだんだ」
「何ちょっとキメ顔で言ってんのよ…!」
この男殴り倒してやろうか…なんて本気で考えていた時、陽の背後に1人の女性が現れた。
そして――変態男の頭を容赦なく叩く。
「いでッ」
「初対面の女の子にセクハラすんなバカ。その子困ってんでしょ」
「ひっでーな、こんなでかいのあったら誰でも触りたくなるだろー?まぁ俺はチャロの揉み心地が一番好きだけど。俺の手にスッポリ入るサイズっつーか?…いだだだだ」
“チャロ”と呼ばれた20代くらいの女性は、今度は変態男の頬を容赦なく抓る。
チャロさんは変態男と同じ黒のタンクトップで、スニーカーを履いている。
髪型はポンパドールと三つ編みをしていて、色はダークブラウン。
変態男とも仲が良さそうだし…いや寧ろ悪そうにも見えなくもないけど、多分これがもう1人の指揮官のチャロさんだろう。
チャロさんは変態男が黙ったところで、こちらを向いてきた。
「ごめんね。こいつこういう奴だから、あんま近寄らない方がいいよ。えーっと…アリスちゃんだっけ?はじめまして。アタシはチャロ」
「はじめまして、チャロさん」
できるだけ愛想良く振る舞うと、チャロさんはパァッと明るくなって。
「可愛い~!やっぱ職場には女の子なわけよ!ここやたらと男が多いからむさ苦しくって…おまけにこんな変態野郎もいるし」
“こんな変態野郎”と言って陽をチラ見する。
「んなこと言って、俺と話したくて来たんだろ?」
「やめてよね、おぞましい。アタシはニーナちゃんとボスがいたから来ただけ」
冷たい瞳で陽を見るチャロさんと、それに苦笑いする陽。
6階のメンバーの指揮官ってこんな人たちなのね…。
もっと厳しそうなイメージがあったんだけど、この様子だと6階のメンバーって意外とワイワイしてたりするのかしら。
そんなことを考えていると、不意にチャロさんがエリックさんに手を差し出した。
「こんばんは、ボス。直接会うのは久しぶりじゃない?」
エリックさんはチャロさんの手を取り、2人は握手する。
「あぁ、そうだな。報告書によれば、お前は更に腕を上げてきてるみたいじゃないか。優秀な幹部だ」
「そう言ってくれて嬉しいけど、アタシとしてはこれからまだまだ腕を上げるつもりでいるからよろしく。」
得意げに笑うチャロさん。
「楽しみにしているよ」
エリックさんも、挑戦的な笑みで返す。
「ひっでー。俺には何も言ってくれないんすか、ボス」
「お前も確かに優秀な働きぶりだが、態度が気に食わん」
「何すかそれ…!」
少し離れたテーブルにいる6階のメンバーらしき人たちがクスクスと笑う。
…この組織の人たちって結構愉快…というか、仲が良いみたいね。
私は暫くエリックさん達の会話を眺めていた。
この中で私だけが余所者。
表面上この組織の人間というだけで、実際は違う。
この楽しそうな様子を見ていると、そのことが少しだけ寂しく感じてしまう。
――“スパイに感情なんていらないんだよ?”
また、シャロンの声が脳内で木霊した。
「あ、そうそうアリスちん」
陽が声を掛けてきて、ハッとする。その呼び方どうにかならないのかしら。
「メアド教えてくんね?」