そのままブラッドさんたちが帰ってくるまで黙っていることにした。
警戒度MAXの私を見て、アランは何故か笑い出す。
でも、それ以上は何もしてこなかった。
―――…ブラッドさんたちが帰ってくるまで、私たちの間には妙な空気が流れていた。
――
――――
白の可愛いブラウスに、ピンク色のミニスカート。
ブラッドさんとラスティ君が選んだのは、そんな全体的に女の子っぽい服だった。
リバディーのメンバーの服装は、大体黒で纏められている。
だからこんな格好はあきらかに目立つと思って嫌だったけれど、ラスティ君に急かされ結局この服にしてしまった。
私にこんなイメージを持っているのなら見当違いだと言うと、「君は何を着ても可愛いですよ」とあっさり流された。
仕方なくそれを着て1階まで行くと、受付にいたニーナちゃんが「アリスさんは何を着ても可愛いですね…!」と言われた。
さすが兄妹。言ってることが同じだわ。
私を美化しすぎているところも同じだわ。
今日は可愛いと言われることが多くて調子が狂う。
そもそも“可愛い”と言われて喜ぶべき?
あの人達の言う“可愛い”って、本当に褒め言葉なの?
弱々しいって意味で言ってるんじゃないでしょうね?
私はどうにも納得できないまま、公衆電話へと向かった。
――リバディーの建物内から出て数分歩くと、そこには人通りの多い街が広がっている。
こんな場所でピアスの通信機能を使いたくないし、端から見れば1人で喋っている人に見えるだろう。
人目の多い場所ではなるべく一般的な行動をとるつもりだ。
ポケットから財布を取り出し、公衆電話に10円を入れる。
シャロンは頻繁に自分の携帯を捨てるから、私の覚えている番号にかけても繋がらなかったら諦めるしかない。
プルルル、プルルルル…。
シャロンが出るのを待つ。
リバディーの建物から出たのはいいけれど、ここからどうやってクリミナルズの施設まで帰るかだ。
かなり遠いし…迎えがないと難しい。
『もっしもし?誰?』
幸いにも、シャロンの携帯にはちゃんと繋がった。
「私よ。今出たけど…」
『やっぱアリスかぁ。んじゃ、今から言うところまで来てくれる?』
そう言ってシャロンはここから近いホテルの名前と場所を教えてくる。
「……ちょっと待って。そこ高級ホテルじゃない」
『金は俺が払うからいいの~』
「もしかして、帰るんじゃなくてそこに泊まるつもり?」
『そりゃそうでしょ。いくら何でもあの施設まで戻るのはリスキーじゃない?もし付けられてたりしてたら終わりだしぃ』
シャロンの言葉にハッとしてボックスの中から周りを見た。
確かに、この人混みの中にリバディーのメンバーが紛れていてもおかしくはない。
優秀組の3人なら分かるかもしれないけれど、6階にいる他のメンバーなら第一顔を覚えていない。
仮にもあのリバディーだし…こんなことにも気付かないなんて、私も油断しすぎね。
それに、私が出て行く前のブラッドさんの態度も妙だった。
あっさりしすぎている…というか。
ラスティ君が余計なことを言うから、てっきり止められると思っていたのに。
アランと一緒に寝たってだけで嫉妬だの何だの言い出すくせに、私が男に会いに行くのは問題ないわけ?と内心不思議に思った。
……何か裏があるのかもしれない。警戒しないと。
「分かったわ。今から行く」
『おっけー。部屋はもうとってあるから』
「了解。待ってて」
そう言って通話を切る。
シャロン、いつもの調子だったわね…。
今日の朝の一言だけだと機嫌を損ねているようにもとれたから、少しだけ安心した。
公衆電話ボックスから出て、シャロンが待っているホテルへと向かう。
ミニスカートを穿いているのに寒くない。
生暖かい風が大通りを吹き抜ける。
夏の近付きを感じつつ、私は本当の雇い主の元へと足を運ばせた。
ホテルに着いた私は、待っていた従業員に部屋まで案内された。
「おっそぉい。10秒以内には来てくんない?」
カードキーでドアを開けた途端、室内に気怠そうな声音が響く。
前にも聞いたことのある台詞だ。
…この男は私のことをチーターか何かだとでも思っているのかしら。
シャロンは部屋の奥のイージーチェアに足を組んで座っていた。
身に纏っているシンプルなカーディガンとシャツ、ホワイトパンツは恐ろしいほど似合っていて、さすがオシャレ好きだと感心させられる。
「どう~?調子は」
「……その前に着替えていい?」
「着替えなら向こうの部屋。つーか珍しくフェミニンなの着てんねぇ」
「私が選んだわけじゃないわ」
「ふぅん。…選んで貰ったんだ?」
シャロンは視線を少し下降させ、私のスカートを見つめてきた。
何だかこんな似合わない服を着ていることが急に恥ずかしくなってきて、さっさと着替えようと歩き出そうとした、その時。
「アリス、ちょっとおいで?」
シャロンから発せられた言葉。
口調は優しいのに、逆らえない何かがある。
何で私がそっちに行かなきゃなんないのよ。
あなたがこっちに来ればいいでしょ?
……なんて思ったりもするけど、シャロンに反論しても無駄だということは分かってる。
私は溜め息を吐きつつシャロンに近付いた。
と、次の瞬間。
「つーかまーえたぁ」
ぎゅうううっと苦しいくらい抱き締められる。
甘い香りが鼻を擽り、動揺してしまう私。
しかしシャロンはそんな私を他所に、平然とスカートの中へ手を入れてきた。
「ちょっ…!どこ触ってんのよ…!!」
「暴れちゃだぁめ。」
このセクハラ野郎…!
歯を食いしばって耐えていると、シャロンが私のスカートの中から何かを取り出す。
小さい機械。
無論、私はそんな物をスカートの中に入れた覚えはない。
「な、によそれ」
私の質問に答えず、シャロンはその機械をあっさりと部屋の窓から投げ捨てた。
「この高さからだし、さすがに壊れるよねぇ」
そう鼻で笑い、窓を閉める。
「何…?さっきの…」
もう一度問うと、
「ボイスレコーダーの類じゃなぁい?GNSSつきの」
と驚くべき事実を返された。
そんなのがスカートに付けられてるなんて…もしかして、ラスティ君が言ってた“いい考え”ってこのこと?
服を選ぶついでにあの機械を仕掛けたんだわ。
ラスティ君のことだから、単に私がどんな人と会うのか気になったってところでしょうけど…。
服を脱ぐ前にスパイということがバレるような会話をして、もしもそのままこのスカートを持ち帰っていたら終わりだった。
ぞくりと寒気を感じつつ、あんな物を仕掛けていたからブラッドさんもあんなにあっさりしていたのかと妙に納得する。
“初恋の人に似ている私”に関わる男の情報を得たかったのかもしれない。
警戒度MAXの私を見て、アランは何故か笑い出す。
でも、それ以上は何もしてこなかった。
―――…ブラッドさんたちが帰ってくるまで、私たちの間には妙な空気が流れていた。
――
――――
白の可愛いブラウスに、ピンク色のミニスカート。
ブラッドさんとラスティ君が選んだのは、そんな全体的に女の子っぽい服だった。
リバディーのメンバーの服装は、大体黒で纏められている。
だからこんな格好はあきらかに目立つと思って嫌だったけれど、ラスティ君に急かされ結局この服にしてしまった。
私にこんなイメージを持っているのなら見当違いだと言うと、「君は何を着ても可愛いですよ」とあっさり流された。
仕方なくそれを着て1階まで行くと、受付にいたニーナちゃんが「アリスさんは何を着ても可愛いですね…!」と言われた。
さすが兄妹。言ってることが同じだわ。
私を美化しすぎているところも同じだわ。
今日は可愛いと言われることが多くて調子が狂う。
そもそも“可愛い”と言われて喜ぶべき?
あの人達の言う“可愛い”って、本当に褒め言葉なの?
弱々しいって意味で言ってるんじゃないでしょうね?
私はどうにも納得できないまま、公衆電話へと向かった。
――リバディーの建物内から出て数分歩くと、そこには人通りの多い街が広がっている。
こんな場所でピアスの通信機能を使いたくないし、端から見れば1人で喋っている人に見えるだろう。
人目の多い場所ではなるべく一般的な行動をとるつもりだ。
ポケットから財布を取り出し、公衆電話に10円を入れる。
シャロンは頻繁に自分の携帯を捨てるから、私の覚えている番号にかけても繋がらなかったら諦めるしかない。
プルルル、プルルルル…。
シャロンが出るのを待つ。
リバディーの建物から出たのはいいけれど、ここからどうやってクリミナルズの施設まで帰るかだ。
かなり遠いし…迎えがないと難しい。
『もっしもし?誰?』
幸いにも、シャロンの携帯にはちゃんと繋がった。
「私よ。今出たけど…」
『やっぱアリスかぁ。んじゃ、今から言うところまで来てくれる?』
そう言ってシャロンはここから近いホテルの名前と場所を教えてくる。
「……ちょっと待って。そこ高級ホテルじゃない」
『金は俺が払うからいいの~』
「もしかして、帰るんじゃなくてそこに泊まるつもり?」
『そりゃそうでしょ。いくら何でもあの施設まで戻るのはリスキーじゃない?もし付けられてたりしてたら終わりだしぃ』
シャロンの言葉にハッとしてボックスの中から周りを見た。
確かに、この人混みの中にリバディーのメンバーが紛れていてもおかしくはない。
優秀組の3人なら分かるかもしれないけれど、6階にいる他のメンバーなら第一顔を覚えていない。
仮にもあのリバディーだし…こんなことにも気付かないなんて、私も油断しすぎね。
それに、私が出て行く前のブラッドさんの態度も妙だった。
あっさりしすぎている…というか。
ラスティ君が余計なことを言うから、てっきり止められると思っていたのに。
アランと一緒に寝たってだけで嫉妬だの何だの言い出すくせに、私が男に会いに行くのは問題ないわけ?と内心不思議に思った。
……何か裏があるのかもしれない。警戒しないと。
「分かったわ。今から行く」
『おっけー。部屋はもうとってあるから』
「了解。待ってて」
そう言って通話を切る。
シャロン、いつもの調子だったわね…。
今日の朝の一言だけだと機嫌を損ねているようにもとれたから、少しだけ安心した。
公衆電話ボックスから出て、シャロンが待っているホテルへと向かう。
ミニスカートを穿いているのに寒くない。
生暖かい風が大通りを吹き抜ける。
夏の近付きを感じつつ、私は本当の雇い主の元へと足を運ばせた。
ホテルに着いた私は、待っていた従業員に部屋まで案内された。
「おっそぉい。10秒以内には来てくんない?」
カードキーでドアを開けた途端、室内に気怠そうな声音が響く。
前にも聞いたことのある台詞だ。
…この男は私のことをチーターか何かだとでも思っているのかしら。
シャロンは部屋の奥のイージーチェアに足を組んで座っていた。
身に纏っているシンプルなカーディガンとシャツ、ホワイトパンツは恐ろしいほど似合っていて、さすがオシャレ好きだと感心させられる。
「どう~?調子は」
「……その前に着替えていい?」
「着替えなら向こうの部屋。つーか珍しくフェミニンなの着てんねぇ」
「私が選んだわけじゃないわ」
「ふぅん。…選んで貰ったんだ?」
シャロンは視線を少し下降させ、私のスカートを見つめてきた。
何だかこんな似合わない服を着ていることが急に恥ずかしくなってきて、さっさと着替えようと歩き出そうとした、その時。
「アリス、ちょっとおいで?」
シャロンから発せられた言葉。
口調は優しいのに、逆らえない何かがある。
何で私がそっちに行かなきゃなんないのよ。
あなたがこっちに来ればいいでしょ?
……なんて思ったりもするけど、シャロンに反論しても無駄だということは分かってる。
私は溜め息を吐きつつシャロンに近付いた。
と、次の瞬間。
「つーかまーえたぁ」
ぎゅうううっと苦しいくらい抱き締められる。
甘い香りが鼻を擽り、動揺してしまう私。
しかしシャロンはそんな私を他所に、平然とスカートの中へ手を入れてきた。
「ちょっ…!どこ触ってんのよ…!!」
「暴れちゃだぁめ。」
このセクハラ野郎…!
歯を食いしばって耐えていると、シャロンが私のスカートの中から何かを取り出す。
小さい機械。
無論、私はそんな物をスカートの中に入れた覚えはない。
「な、によそれ」
私の質問に答えず、シャロンはその機械をあっさりと部屋の窓から投げ捨てた。
「この高さからだし、さすがに壊れるよねぇ」
そう鼻で笑い、窓を閉める。
「何…?さっきの…」
もう一度問うと、
「ボイスレコーダーの類じゃなぁい?GNSSつきの」
と驚くべき事実を返された。
そんなのがスカートに付けられてるなんて…もしかして、ラスティ君が言ってた“いい考え”ってこのこと?
服を選ぶついでにあの機械を仕掛けたんだわ。
ラスティ君のことだから、単に私がどんな人と会うのか気になったってところでしょうけど…。
服を脱ぐ前にスパイということがバレるような会話をして、もしもそのままこのスカートを持ち帰っていたら終わりだった。
ぞくりと寒気を感じつつ、あんな物を仕掛けていたからブラッドさんもあんなにあっさりしていたのかと妙に納得する。
“初恋の人に似ている私”に関わる男の情報を得たかったのかもしれない。