「……あれはちょっとよろけただけよ」
「ふ~ん?因みに、あの時の写真は本体とSDカードにバッチリ保存してるよ」
「……」
この悪趣味め。
さっきだって無理矢理キスしようとしてきたし…もっと警戒するべきかしらね。
ニーナちゃんもラスティ君の余計な台詞を聞いて泣きそうな顔してるし。
空気を読みなさいよ、空気を…!!
ニーナちゃんはかなり責任感が強いタイプのようだし、何とか慰めてあげないとこのままずっと引き摺るかも…。
どうしようかとあれこれ考えていた時。
「ニーナ、落ち着け」
黙っていたエリックさんがニーナちゃんに声をかけた。
そして――ニーナちゃんの髪に軽いキスを落とす。
「過ぎたことは仕方ないだろう?過去は変えられない。次から気を付ければいいだけだ」
私と会話した時とは全く違う、優しい声音。
表情も和らいでいて、変わりように驚いてしまうほど。
「…は、い」
ニーナちゃんもエリックさんのそんな穏やかさに落ち着いたのか、冷静さを取り戻した。
「…でも、私が皆さんに迷惑をかけたことに変わりはありません。何らかの形で償いはします」
少しだけ間をおいて、ニーナちゃんはそう言う。
――そんな時、ふとエリックさんの肩が震えていることに気付いた。
……?どうしたのかしら。何だか頬も少し染まってるし。
様子がおかしい。そう思ってじっと見ていると、唐突にエリックさんがニーナちゃんを抱き締めた。
「な、何ですかいきなり…!」
驚いたのは私だけではなく、ニーナちゃんもだ。
ラスティ君だけは全く驚いていない。
「ああもう…、可愛い…!」
「はい…!?ちょ、苦し…、」
「何歳になっても健気で可愛いな、お前は。ほら、7階に戻ってお茶にしよう」
「く、苦しいですって…!力の加減をしてくださいっていつも言ってるじゃないですか…!」
ジタバタ暴れるニーナちゃんを押さえ込むようにして強く抱き締め続けるエリックさん。
数秒後、抵抗しても無駄だと思ったのかニーナちゃんは大人しくなった。
かと言って抱き締められていることを喜ばしく思っているわけではないようで、死んだ魚のような目をしている。
これ…思いっきり嫌がってるわよね…?
「あの、エリックさん…?ニーナちゃんが苦しそうなんだけれど…」
「…何だ?口を出すな。お前にはニーナの薬を持ってきてくれた点で感謝しているが、それ以外で指図される覚えはない」
……何かイラッとするわね、この人。
「アリスさんにそんな言い方しないでください」
すかさず注意するニーナちゃん。
「何だ、お前まで。第一私はお前が食堂で飯をとることを許可していなかっただろう?それなのにこんな女と…」
……“こんな女”って私のことかしら?
「私だって朝昼晩3食エリックと一緒に7階で食べるなんて提案、納得した覚えはありません。どこで食事しようと私の勝手じゃないですか。それに、アリスさんは私が変な男性に絡まれていたところを助けてくれて…」
「あ?」
「…え?」
「誰だ?“変な男性”って」
「あ、いや…そ、それより私はアリスさんにそんな態度をとらないでほしいと言って…」
「アリス、アリス、アリスって。お前は私とアリスとかいう娘のどっちが好きなんだ?それに、話を逸らすな。その男とやらがどんな奴だったか言え。今すぐにだ。殺してやる」
「少なくともあなたよりは好きですから…!アリスさんは素敵な女性です」
エリックさんの殺してやる発言をスルーしてニーナちゃんがそう言った途端、エリックさんは殺意のこもった視線を私に向けてくる。
私に嫉妬でもしているのか、殺意どころか今にも殺されそうだ。
……もしかしてジャックの言っていたニーナちゃんに何かあるとうるさい奴って、この人のことだったのかしら?
思わず鼻で笑ってしまう。
そんな私の態度に眉を寄せるエリックさん。
まるで自分の獲物を奪われないよう警戒する犬のようだ。
「…いい気になるなよ」
「ニーナちゃんに嫌われるようなことばかりしている貴方が悪いんじゃない?」
「指図するな」
「指図?一応アドバイスしてるつもりなんだけど」
「お前が私に?ふざけるな、私が何年ニーナと共にいると思ってる」
「どれだけ一緒にいても嫌われてるんじゃ意味ないでしょう」
「……」
「もっとニーナちゃんの意見も聞いてあげることね」
まぁ、私もちょっと話を聞いただけだから事情は知らないけど。
こういうのを見てると放っておけない。
身に覚えがあるというか。
このなかなか抵抗できない関係に凄く覚えがあるというか。
最後には抵抗する気すら失せてくるのよね、ニーナちゃん。
分かる、分かるわ。
……あなたたちの関係、私とシャロンの関係に似てるもの…。
エリックさんは言い返せなくなったのか、私を睨みながらムスッとしているだけだ。
ニーナちゃんは天使でも見ているようなキラキラした瞳で私を見ている。
ラスティ君は…言わずもがな、これでもかと言うほどニヤニヤしている。
「やっぱアリスちゃんサイコー。まさかトップにお説教とはね~」
その言葉を聞いてハッとした。
そ…そういえばこの人、仮にもリバディーのトップだった…。
しまった、つい優秀組の3人と同じ扱いをしてしまった。
ここで秘書を辞めさせられたりしたらまずい。
…けれどそんな心配は無用だったようで、エリックさんは私を睨み付けたまま、
「見ていろ。いつかお前の目の前で、ニーナにお前より私の方が好きだと言わせてやるからな」
そう言ってエレベーターの方へ戻っていくだけだった。
去り際の悪役のようにしか見えない。
ニーナちゃんはエリックさんに連れて行かれながらも私に「アリスさん!薬、ありがとうございました…!」と言ってきてくれた。
あの様子だと秘書を辞めさせられるってことはない…か。
とりあえずほっとしながらも、まだニヤニヤしているラスティ君を冷たい目で見る私。
まぁ初めてこの組織のトップも見れたし、4階も見れたし。
変な子だけど、ラスティ君には感謝しなきゃね。
……でも、何だろう?この違和感は。
今日1日でうまくいきすぎというか。
ずっと思っていた。
ラスティ君は何故こんなにも私に構うのか。
どうせ“萌えるから”なんてくだらないこと言われるんだろうけど、その理由が分からないのだ。
今日ここに来たのだって、まるで私をトップであるエリックさんにわざと会わせようとしていたみたいだし…。
いや、それは偶然だとしても、4階に来たのは私に4階を紹介する為よね…?
秘書なんだから、こんな場所私には関係ないはずなのに。
それなのに紹介してくれた。
まるで。
まるで私のスパイとしての目的を知っているかのような――…。
「ふ~ん?因みに、あの時の写真は本体とSDカードにバッチリ保存してるよ」
「……」
この悪趣味め。
さっきだって無理矢理キスしようとしてきたし…もっと警戒するべきかしらね。
ニーナちゃんもラスティ君の余計な台詞を聞いて泣きそうな顔してるし。
空気を読みなさいよ、空気を…!!
ニーナちゃんはかなり責任感が強いタイプのようだし、何とか慰めてあげないとこのままずっと引き摺るかも…。
どうしようかとあれこれ考えていた時。
「ニーナ、落ち着け」
黙っていたエリックさんがニーナちゃんに声をかけた。
そして――ニーナちゃんの髪に軽いキスを落とす。
「過ぎたことは仕方ないだろう?過去は変えられない。次から気を付ければいいだけだ」
私と会話した時とは全く違う、優しい声音。
表情も和らいでいて、変わりように驚いてしまうほど。
「…は、い」
ニーナちゃんもエリックさんのそんな穏やかさに落ち着いたのか、冷静さを取り戻した。
「…でも、私が皆さんに迷惑をかけたことに変わりはありません。何らかの形で償いはします」
少しだけ間をおいて、ニーナちゃんはそう言う。
――そんな時、ふとエリックさんの肩が震えていることに気付いた。
……?どうしたのかしら。何だか頬も少し染まってるし。
様子がおかしい。そう思ってじっと見ていると、唐突にエリックさんがニーナちゃんを抱き締めた。
「な、何ですかいきなり…!」
驚いたのは私だけではなく、ニーナちゃんもだ。
ラスティ君だけは全く驚いていない。
「ああもう…、可愛い…!」
「はい…!?ちょ、苦し…、」
「何歳になっても健気で可愛いな、お前は。ほら、7階に戻ってお茶にしよう」
「く、苦しいですって…!力の加減をしてくださいっていつも言ってるじゃないですか…!」
ジタバタ暴れるニーナちゃんを押さえ込むようにして強く抱き締め続けるエリックさん。
数秒後、抵抗しても無駄だと思ったのかニーナちゃんは大人しくなった。
かと言って抱き締められていることを喜ばしく思っているわけではないようで、死んだ魚のような目をしている。
これ…思いっきり嫌がってるわよね…?
「あの、エリックさん…?ニーナちゃんが苦しそうなんだけれど…」
「…何だ?口を出すな。お前にはニーナの薬を持ってきてくれた点で感謝しているが、それ以外で指図される覚えはない」
……何かイラッとするわね、この人。
「アリスさんにそんな言い方しないでください」
すかさず注意するニーナちゃん。
「何だ、お前まで。第一私はお前が食堂で飯をとることを許可していなかっただろう?それなのにこんな女と…」
……“こんな女”って私のことかしら?
「私だって朝昼晩3食エリックと一緒に7階で食べるなんて提案、納得した覚えはありません。どこで食事しようと私の勝手じゃないですか。それに、アリスさんは私が変な男性に絡まれていたところを助けてくれて…」
「あ?」
「…え?」
「誰だ?“変な男性”って」
「あ、いや…そ、それより私はアリスさんにそんな態度をとらないでほしいと言って…」
「アリス、アリス、アリスって。お前は私とアリスとかいう娘のどっちが好きなんだ?それに、話を逸らすな。その男とやらがどんな奴だったか言え。今すぐにだ。殺してやる」
「少なくともあなたよりは好きですから…!アリスさんは素敵な女性です」
エリックさんの殺してやる発言をスルーしてニーナちゃんがそう言った途端、エリックさんは殺意のこもった視線を私に向けてくる。
私に嫉妬でもしているのか、殺意どころか今にも殺されそうだ。
……もしかしてジャックの言っていたニーナちゃんに何かあるとうるさい奴って、この人のことだったのかしら?
思わず鼻で笑ってしまう。
そんな私の態度に眉を寄せるエリックさん。
まるで自分の獲物を奪われないよう警戒する犬のようだ。
「…いい気になるなよ」
「ニーナちゃんに嫌われるようなことばかりしている貴方が悪いんじゃない?」
「指図するな」
「指図?一応アドバイスしてるつもりなんだけど」
「お前が私に?ふざけるな、私が何年ニーナと共にいると思ってる」
「どれだけ一緒にいても嫌われてるんじゃ意味ないでしょう」
「……」
「もっとニーナちゃんの意見も聞いてあげることね」
まぁ、私もちょっと話を聞いただけだから事情は知らないけど。
こういうのを見てると放っておけない。
身に覚えがあるというか。
このなかなか抵抗できない関係に凄く覚えがあるというか。
最後には抵抗する気すら失せてくるのよね、ニーナちゃん。
分かる、分かるわ。
……あなたたちの関係、私とシャロンの関係に似てるもの…。
エリックさんは言い返せなくなったのか、私を睨みながらムスッとしているだけだ。
ニーナちゃんは天使でも見ているようなキラキラした瞳で私を見ている。
ラスティ君は…言わずもがな、これでもかと言うほどニヤニヤしている。
「やっぱアリスちゃんサイコー。まさかトップにお説教とはね~」
その言葉を聞いてハッとした。
そ…そういえばこの人、仮にもリバディーのトップだった…。
しまった、つい優秀組の3人と同じ扱いをしてしまった。
ここで秘書を辞めさせられたりしたらまずい。
…けれどそんな心配は無用だったようで、エリックさんは私を睨み付けたまま、
「見ていろ。いつかお前の目の前で、ニーナにお前より私の方が好きだと言わせてやるからな」
そう言ってエレベーターの方へ戻っていくだけだった。
去り際の悪役のようにしか見えない。
ニーナちゃんはエリックさんに連れて行かれながらも私に「アリスさん!薬、ありがとうございました…!」と言ってきてくれた。
あの様子だと秘書を辞めさせられるってことはない…か。
とりあえずほっとしながらも、まだニヤニヤしているラスティ君を冷たい目で見る私。
まぁ初めてこの組織のトップも見れたし、4階も見れたし。
変な子だけど、ラスティ君には感謝しなきゃね。
……でも、何だろう?この違和感は。
今日1日でうまくいきすぎというか。
ずっと思っていた。
ラスティ君は何故こんなにも私に構うのか。
どうせ“萌えるから”なんてくだらないこと言われるんだろうけど、その理由が分からないのだ。
今日ここに来たのだって、まるで私をトップであるエリックさんにわざと会わせようとしていたみたいだし…。
いや、それは偶然だとしても、4階に来たのは私に4階を紹介する為よね…?
秘書なんだから、こんな場所私には関係ないはずなのに。
それなのに紹介してくれた。
まるで。
まるで私のスパイとしての目的を知っているかのような――…。