「ふーん。僕にはそう思えないけど」
「貴方が言ってるのは恋愛対象としてって話でしょう?私はあいつをそんな風に見たことがないわ。それに…」
「それに?」
「ラスティ君が本気じゃないことくらい分かるもの。本気じゃない人間に本気で答えるなんて馬鹿らしい」
ラスティ君は私のそんな返答にぽかんとしてから、次の瞬間にはニヤァ、と不気味な笑みを浮かべた。
この笑い方苦手なのよね…なんて思いながら自動販売機の横の長椅子に座る私。
ラスティ君もいちごミルクを持ってその横に座った。
「アリスちゃんサイコー。」
わけが分からない。褒められてるのかすら微妙なとこだし…。
愉しげにいちごミルクにストローをさすラスティ君の癖毛が揺れる。
それは、間近で見るとやっぱりふわふわしていて。
思わず手を出して触れてしまった。
「……」
「……」
「……」
「……」
流れる沈黙。
ラスティ君が黙るなんて珍しい。しかもまたぽかんとしている。
ひょっとして髪触られるのが嫌いなタイプ…?
まぁただでさえ癖毛なんだし、分からないでもないけど。
「……わしゃわしゃしたくなる髪してるわよね」
「……」
ラスティ君は少しだけ目線を下に。
数秒後、チラリと横目で私を見る。
そして――いきなり腕を引っ張ってきた。
「……ッ」
間近にラスティ君の顔がある。ヴァイオレットの無駄に綺麗な瞳が私を覗いている。
困惑する私に今まで見たこともない官能的な笑みを浮かべ、
「いきなり触んないでよオネーサン。ドキドキしちゃうデショ?」
とてもそんな風には見えない台詞を口にした彼。
頑張って腕を振り払おうと試みるけれど、意外と力が強い。
「誘ってんのかと思っちゃった」
「…そんなわけないでしょ」
「アリスちゃんって意外とガード固いよね」
「は…?」
「でもそういう人間の方が――無理矢理したくなっちゃう」
まずい、と脳内に警告音が鳴り響いた。
いつもの冗談めいた空気が感じられない。
瞬時に掴まれていないもう片方の手で突き飛ばそうとしたけれど、驚くほどの速さでその手も押さえられてしまった。
「……意外と力強いわよね、ラスティ君」
「アリスちゃんも動きはいいと思うよ?一般人とは思えないな」
「あら、ありがとう。でもちょっと顔が近いんじゃないかしら?」
「当たり前じゃん?このまま無理矢理チューしたらアリスちゃんがどんな反応するか興味あるし」
さてどうしてくれようか。
これはかなりピンチなのでは……なんて思っていた時、
「おい、ラスティ。ここは女と戯れる場所ではない」
―――聞き慣れない低い声が私の後ろから聞こえてきた。
ラスティ君もその声に動きを止める。
振り向くと、スーツを着た30代くらいの男が立っていた。
男性にしてはロングなベージュの髪を後ろで軽く纏めている。
姿勢も良くピシッとしていて、真面目そうな雰囲気。
「あれ?えりりんじゃん」
ラスティ君が私から手を離し、ニコニコ笑う。
えりりん…?“ぶらりん”と言い、この子は人の名前に“りん”を付けるのが好きなのかしら?
私の場合“ありりん”になったりするのかしら…考えたくないけど。
「その呼び方はやめろと言っているだろう。私の名前はエリックだ」
「うんうん。分かってるよ、えりりん」
「分かってないな…。それより、アリスとかいう女はどこにいる?」
「ん?アリスちゃん?ここにいるけど」
ラスティ君が私を指さす。
何でいきなり私の名前が出てくるのか分からない。
しかし、エリックとかいう男は私に視線を向け、無愛想にこう言った。
「お前か。感謝する」
「……はい?」
「アランから報告は受けている。薬を持ってきてくれたのだろう?」
「薬…?」
「ニーナの薬だ。お陰であの子は目覚めたよ」
ニーナちゃんが目覚めた…?それは良かった、けど。
何でこの人がそんなことを言ってくるんだろう。
ここにいるってことはリバディーのメンバーなんだろうけど、この人は何だか雰囲気が違う。
何が違うんだって聞かれたら返せない。でもやっぱり何か…。
チラリとラスティ君を見て説明を求めると、
「あぁ、アリスちゃん初めて会うんだっけ?この人、この組織のトップだよ」
あっさり教えてくださった。
思考が一瞬停止し、数秒後ハッとしてエリックさんの顔を見る。
トップ…!この人が…!
優秀組3人は一般人にとっても有名らしいけれど、トップに関しては謎に包まれていた。
私でさえ名前も顔も知らなかったのだ。
元々そんな人いないんじゃないかとか、忙しすぎて部屋から出られないんじゃないかとか、わざと隠しているんじゃないかとか。
私たちの組織の間でも色々な説があったけれど、リバディーのトップの情報は調べても調べても見つからなかった。驚くほどに。
そんな人が今、目の前にいる。
まぁここでのスパイ活動を始めてからはアランからちょっと情報が入ったこともあった。
でも会ったのは勿論初めて。
「初め…まして」
「あぁ。」
やっぱり少し無愛想に返された。
あのリバディーのトップなんだから、50は過ぎてると思ってたのに…意外と若い。元々若者を中心とした組織だというのもあるんだろう。
シャロンだってあの年齢で私たちの組織を管理しているのだし、こういうのに年齢は関係ないのかもしれない。
それに、アランはトップのことを強引男だなんて言ってたけど…とてもそんな風には見えない。
アランは何か勘違いしてるんじゃないの?と思った矢先。
「アリスさん…!」
息を切らしながらこちらへ走ってくる女の子。
まだ寝起きなのか少し寝癖がたっている。
「アリスさん…ごめんなさい!私が油断しすぎたばかりに、凄まじいご迷惑をおかけしてしまって…!」
その女の子、ニーナちゃんは涙目になって焦っている様子。
どうやら何があったのかの説明は受けているみたいだ。
いつもならお金を要求するような場面だけれど、さすがにこんな女の子に対しては気が引ける。
それに、今回のことはニーナちゃんが悪いわけじゃない。
「別に迷惑なんて思ってないわ。迷惑なのはあの団体の方よ」
「で、でも…アリスさん、沢山怪我をしたって、」
寝起きにそんな話を聞かされてあわあわしているのか、ニーナちゃんはいつもより余裕がないらしい。
まだ混乱しているようだ。
「それより、身体の方は大丈夫?随分眠ってたみたいだけど」
「だ、大丈夫です…!でもアリスさんは、」
「私も大丈夫よ。もう完治してるし、そこまで酷い怪我じゃなかったしね。掠り傷みたいなもんだわ」
そう言って安心させようとしたのに、横からラスティ君が余計な一言を口にしてくる。
「よく言うよね~最初の頃は立てなくて床に這い蹲ってたくせに」
「貴方が言ってるのは恋愛対象としてって話でしょう?私はあいつをそんな風に見たことがないわ。それに…」
「それに?」
「ラスティ君が本気じゃないことくらい分かるもの。本気じゃない人間に本気で答えるなんて馬鹿らしい」
ラスティ君は私のそんな返答にぽかんとしてから、次の瞬間にはニヤァ、と不気味な笑みを浮かべた。
この笑い方苦手なのよね…なんて思いながら自動販売機の横の長椅子に座る私。
ラスティ君もいちごミルクを持ってその横に座った。
「アリスちゃんサイコー。」
わけが分からない。褒められてるのかすら微妙なとこだし…。
愉しげにいちごミルクにストローをさすラスティ君の癖毛が揺れる。
それは、間近で見るとやっぱりふわふわしていて。
思わず手を出して触れてしまった。
「……」
「……」
「……」
「……」
流れる沈黙。
ラスティ君が黙るなんて珍しい。しかもまたぽかんとしている。
ひょっとして髪触られるのが嫌いなタイプ…?
まぁただでさえ癖毛なんだし、分からないでもないけど。
「……わしゃわしゃしたくなる髪してるわよね」
「……」
ラスティ君は少しだけ目線を下に。
数秒後、チラリと横目で私を見る。
そして――いきなり腕を引っ張ってきた。
「……ッ」
間近にラスティ君の顔がある。ヴァイオレットの無駄に綺麗な瞳が私を覗いている。
困惑する私に今まで見たこともない官能的な笑みを浮かべ、
「いきなり触んないでよオネーサン。ドキドキしちゃうデショ?」
とてもそんな風には見えない台詞を口にした彼。
頑張って腕を振り払おうと試みるけれど、意外と力が強い。
「誘ってんのかと思っちゃった」
「…そんなわけないでしょ」
「アリスちゃんって意外とガード固いよね」
「は…?」
「でもそういう人間の方が――無理矢理したくなっちゃう」
まずい、と脳内に警告音が鳴り響いた。
いつもの冗談めいた空気が感じられない。
瞬時に掴まれていないもう片方の手で突き飛ばそうとしたけれど、驚くほどの速さでその手も押さえられてしまった。
「……意外と力強いわよね、ラスティ君」
「アリスちゃんも動きはいいと思うよ?一般人とは思えないな」
「あら、ありがとう。でもちょっと顔が近いんじゃないかしら?」
「当たり前じゃん?このまま無理矢理チューしたらアリスちゃんがどんな反応するか興味あるし」
さてどうしてくれようか。
これはかなりピンチなのでは……なんて思っていた時、
「おい、ラスティ。ここは女と戯れる場所ではない」
―――聞き慣れない低い声が私の後ろから聞こえてきた。
ラスティ君もその声に動きを止める。
振り向くと、スーツを着た30代くらいの男が立っていた。
男性にしてはロングなベージュの髪を後ろで軽く纏めている。
姿勢も良くピシッとしていて、真面目そうな雰囲気。
「あれ?えりりんじゃん」
ラスティ君が私から手を離し、ニコニコ笑う。
えりりん…?“ぶらりん”と言い、この子は人の名前に“りん”を付けるのが好きなのかしら?
私の場合“ありりん”になったりするのかしら…考えたくないけど。
「その呼び方はやめろと言っているだろう。私の名前はエリックだ」
「うんうん。分かってるよ、えりりん」
「分かってないな…。それより、アリスとかいう女はどこにいる?」
「ん?アリスちゃん?ここにいるけど」
ラスティ君が私を指さす。
何でいきなり私の名前が出てくるのか分からない。
しかし、エリックとかいう男は私に視線を向け、無愛想にこう言った。
「お前か。感謝する」
「……はい?」
「アランから報告は受けている。薬を持ってきてくれたのだろう?」
「薬…?」
「ニーナの薬だ。お陰であの子は目覚めたよ」
ニーナちゃんが目覚めた…?それは良かった、けど。
何でこの人がそんなことを言ってくるんだろう。
ここにいるってことはリバディーのメンバーなんだろうけど、この人は何だか雰囲気が違う。
何が違うんだって聞かれたら返せない。でもやっぱり何か…。
チラリとラスティ君を見て説明を求めると、
「あぁ、アリスちゃん初めて会うんだっけ?この人、この組織のトップだよ」
あっさり教えてくださった。
思考が一瞬停止し、数秒後ハッとしてエリックさんの顔を見る。
トップ…!この人が…!
優秀組3人は一般人にとっても有名らしいけれど、トップに関しては謎に包まれていた。
私でさえ名前も顔も知らなかったのだ。
元々そんな人いないんじゃないかとか、忙しすぎて部屋から出られないんじゃないかとか、わざと隠しているんじゃないかとか。
私たちの組織の間でも色々な説があったけれど、リバディーのトップの情報は調べても調べても見つからなかった。驚くほどに。
そんな人が今、目の前にいる。
まぁここでのスパイ活動を始めてからはアランからちょっと情報が入ったこともあった。
でも会ったのは勿論初めて。
「初め…まして」
「あぁ。」
やっぱり少し無愛想に返された。
あのリバディーのトップなんだから、50は過ぎてると思ってたのに…意外と若い。元々若者を中心とした組織だというのもあるんだろう。
シャロンだってあの年齢で私たちの組織を管理しているのだし、こういうのに年齢は関係ないのかもしれない。
それに、アランはトップのことを強引男だなんて言ってたけど…とてもそんな風には見えない。
アランは何か勘違いしてるんじゃないの?と思った矢先。
「アリスさん…!」
息を切らしながらこちらへ走ってくる女の子。
まだ寝起きなのか少し寝癖がたっている。
「アリスさん…ごめんなさい!私が油断しすぎたばかりに、凄まじいご迷惑をおかけしてしまって…!」
その女の子、ニーナちゃんは涙目になって焦っている様子。
どうやら何があったのかの説明は受けているみたいだ。
いつもならお金を要求するような場面だけれど、さすがにこんな女の子に対しては気が引ける。
それに、今回のことはニーナちゃんが悪いわけじゃない。
「別に迷惑なんて思ってないわ。迷惑なのはあの団体の方よ」
「で、でも…アリスさん、沢山怪我をしたって、」
寝起きにそんな話を聞かされてあわあわしているのか、ニーナちゃんはいつもより余裕がないらしい。
まだ混乱しているようだ。
「それより、身体の方は大丈夫?随分眠ってたみたいだけど」
「だ、大丈夫です…!でもアリスさんは、」
「私も大丈夫よ。もう完治してるし、そこまで酷い怪我じゃなかったしね。掠り傷みたいなもんだわ」
そう言って安心させようとしたのに、横からラスティ君が余計な一言を口にしてくる。
「よく言うよね~最初の頃は立てなくて床に這い蹲ってたくせに」