「――痛ッ…、」



ブラッドさんが私の首筋に噛み付いている。それも、容赦なく。
私の首筋に付いた歯形を見て、ブラッドさんは満足げに笑った。



「お揃いですね」



……一体何なのかしら、この男は。


噛まれた仕返しに噛んできたのかと思えば、“お揃い”なんて言葉を口にする。



しかも、いつもの服で隠れるかどうか分からない微妙なところを噛みやがった。



「……これで満足?」


余裕ぶって冷淡にそう言えば、クスリと笑われる。



「まさか。まだ終わってませんよ?」


「貴方だって仕事があるでしょ?私をからかってないで離して」


「からかう?俺は本気です」


「そうは思えないわ」


「何故?」


「本気だと思って欲しいなら離して。離さないと貴方の一時の気の迷いってことで済ますわよ」



この台詞が効いたのか、ブラッドさんは数秒私を見つめた後黙って手を離した。




……ある程度道理の分かる人で助かったわ。


まぁたとえ本気だとしても、それはきっと一種の勘違いのようなものだ。


ずっと思い続けていた初恋の人に似た私に出会って混乱しているだけ。




「…じゃあこれで。お仕事頑張って」


私は皮肉混じりに冷たく言い放ち、部屋を出て行く。


ブラッドさんがどんな表情をしているのかは、敢えて見ないでおくことにした。


追ってくるかもしれないと思ったけれど、それもなかった。




“もしも私がスパイだと分かったら、彼はどうするのかしら。”


……なんて。考えても意味のない疑問を掻き消し、シャワールームへ向かった。