ここまで堂々としてるってことは何か手があるのよね?そうよね…?
しかし、そんな私の期待は外れ―――見事に金属探知機は反応し、高い音が通路に響いた。
「金属製の物は外してから通ってください」
当然、直ぐ様女の人が私たちに向かってそう注意してくる。
私はうまく通る方法はないか…と思考を巡らせた。
しかし次の瞬間―――何事かと思うほど、アランを取り巻く空気が変わる。
ゾクリと体の芯が疼くような感覚。
アランから一気にぶわっと色気が放出されたと言っても過言ではないはずだ。
アランの片手は私から離れ、その手はいつの間にか女の人を閉じ込めるようにして壁に付いている。
「――ごめんな?オネーサン」
果たしてこれほどまでに色っぽい声音を出せる人物がアランの他にいるだろうか。
低く甘い声は、少しだけれど距離のある私までをも再びゾクリとさせた。
「“コレ”に反応しちまってるみてぇなんだけど、外さねーとダメ?」
“コレ”――と言いつつアランのもう片方の手が触れたのは、自身のベルトで。
「えっ……」
流石の女性も、色男に接近されながらいきなりそんなことを言われ動揺している。
しかし、アランはその様子を見て更に追い討ちをかけた。
「“コレ”外すのはイイ女とベッドの上でだけって決めてんだけど…」
「え、あ、えっと…」
たじろぐ女性に、アランは舌舐めずりをする。
「オネーサンみてぇなイイ女と、な」
……よくここまでサラサラと口説き文句が出てくるものね…。
トドメとばかりに、アランは女の人の耳元で囁いた。
「ほら、通せよ」
――…結果として。
私たちは金属探知機を無事通り抜けることができたわけだけど。
「……何なのよ今のは」
後ろで未だ放心状態の彼女を見ると申し訳なくなってくる。
そう。アランの色仕掛けに負けた彼女は、口をパクパクさせながら金属探知機のスイッチを切ったのだ。
「さーて、ここの最上階にバーがあるみてぇだな」
当の本人は素知らぬ表情。
まさかこんなやり方で通るとは…色んな意味で恐ろしい男だ。
「予定よりは早く着いたか」
「……その余裕顔ムカつくわ」
「何か言ったか?」
「いいえ、別に。」
もはや睨み合いは恒例行事になっている。
「それより、早く着いたのなら時間があるってことでしょ?さっきの話の続き、教えてもらえるかしら」
「お前のその無駄な乳は好奇心の塊か?」
「煩いわね、デリカシーのない男は嫌いよ。さっさと話して」
「…ったく、分かったよ。その代わりこの話聞いても俺の生き方に口出すなよ。励ましの言葉もいらねぇ。同情されたってうぜぇだけだ。今じゃただの過去でしかねぇからな」
「同情…?私がそんな面倒臭いことすると思うの?金にもならないのに」
「………。」
心底信じられないとでも言うような目でアランを見ると、呆れ顔をされた。
しまった、墓穴を掘ったかも…と思ったけれど、それでもアランは溜め息混じりに話し出す。
―――“優秀組”の一員になってから数日が過ぎた。
ラスティとベルはいつも一緒にいた。
ブラッドは仕事部屋で黙々と作業ばかりして、俺にも仕事のこと以外では話し掛けてこなかった。
俺はと言うと、別にそこまで何かをやれと言われることもなかった。
そのくせ給料はなかなかで、何もしなくても金が入ってくる。
たまに4階にある訓練所で戦闘の訓練をさせられたが、何の為にやっているのかも分からない。
――…ラスティとベルが俺に初めて話し掛けてきたのも、俺が4階で訓練をしていた時だった。
その日の訓練は並べられた的をどれだけ速く銃で全て破壊できるか、なんていう面倒臭ぇもんで。
初めて銃を持ったのはこの時だ。
どうやら俺は銃との相性が良いらしく、すぐ使いこなせるようになり。
最初は遅かったが、的を壊すスピードも段々と速くなっていく。
……つーか、俺は何で銃の訓練なんかさせられてんだ?今後使うってことか?
脳の片隅に微かな疑問を抱きつつも、的を撃っていく。命中しねぇ弾はない。
そろそろ休憩すっか…と、銃を下ろそうとした時。
「――何この人、全然ダメじゃん。前の戦闘員の人の方がよっぽどうまかったのになぁ」
聞き慣れねぇ何とも高飛車そうな声が耳に入ってきた。
俺は銃を下ろさず視線だけ声の主の方へと向ける。
ヴァイオレットの猫目が見上げるようにして俺を捉えていた。
華奢で細いその身体には、ふわふわしたキャラメルブロンドの髪が垂れている。
…“ベル”だ。改めて対面するのは初めてになる。
「感覚神経の伝導速度はどんな人も大体一緒なんだよ?遅いか早いかなんて判断する時間で決まるの。どれだけ他の事を考えてないか…っていうか、どれだけ集中できてるかでこんなくっだらない訓練の結果は大きく変わる」
ペラペラとそう説明したベルは、馬鹿にしたように鼻で笑い、更にこう付け足す。
「アンタ、スタートの合図が鳴ってから撃ち出すまでの間があきすぎ。ぶらりんが戦闘員にするって言ってたからどんな人かと思えば…興醒め~」
ぶらりん…?はぁ?誰だよ。
「――ブラッドのことだよ」
ゾワリと全身に寒気が走った。
背後から、まるで俺の心を読んだかのように突然聞こえてきた声。俺は後ろに誰かがいることすら気付かなかった。
「そうそう、可愛いでしょ。お兄ちゃんもちゃんとぶらりんって呼んでよ?」
「何で僕まで…まぁいいんだけどさ、そう呼ばれた時のアイツの反応気になるし」
ベルから“お兄ちゃん”と呼ばれた男――つまりはラスティの気配を、俺は全く感じ取れなかった。
こんなにも妙…というか、異様な雰囲気だってのに。こんな兄妹が並ぶと落ち着かねぇ。
やっぱ兄の方もガリガリっつー言葉じゃ済まされねぇくらい細い。
表情や口調だけ見てりゃ割と元気そうだし、身体さえ気にしなけりゃ病的というわけでもない。
……つまりは身体が細すぎる。
「お前ら、ちゃんと食ってんのか?」
率直な疑問をぶつけてみれば、2人はきょとんとした顔をした。
そして直ぐにニコニコと返してくる。
「僕は甘いものよく食べてるよ」
「私も~2階にあるスイーツ専門店のやつチョー美味しいんだもん!」
2階のスイーツ専門店のやつって…オイ、あんな甘ったるそうなモン主食にしてたら病気になんぞ。
「他は何も食べてねぇのか?つーか1日何食だ?」
「僕は大抵飲み物で済ませてるかも。ちゃんとしたご飯なら3日に1回くらいは食べてるよ」
「私は……なんか、食欲わかないしあんまり……」
ベルは言葉を濁しつつ、自身の二の腕の辺りをきゅっと掴んだ。
さっきの偉そうな態度よりそんな風にしおらしくしといた方が普通の9歳児っぽくて可愛げあんのに。
「何でそんだけ食欲わかねぇんだ?」
「生まれつきそこまで食べてなかったからじゃない?」
しかし、そんな私の期待は外れ―――見事に金属探知機は反応し、高い音が通路に響いた。
「金属製の物は外してから通ってください」
当然、直ぐ様女の人が私たちに向かってそう注意してくる。
私はうまく通る方法はないか…と思考を巡らせた。
しかし次の瞬間―――何事かと思うほど、アランを取り巻く空気が変わる。
ゾクリと体の芯が疼くような感覚。
アランから一気にぶわっと色気が放出されたと言っても過言ではないはずだ。
アランの片手は私から離れ、その手はいつの間にか女の人を閉じ込めるようにして壁に付いている。
「――ごめんな?オネーサン」
果たしてこれほどまでに色っぽい声音を出せる人物がアランの他にいるだろうか。
低く甘い声は、少しだけれど距離のある私までをも再びゾクリとさせた。
「“コレ”に反応しちまってるみてぇなんだけど、外さねーとダメ?」
“コレ”――と言いつつアランのもう片方の手が触れたのは、自身のベルトで。
「えっ……」
流石の女性も、色男に接近されながらいきなりそんなことを言われ動揺している。
しかし、アランはその様子を見て更に追い討ちをかけた。
「“コレ”外すのはイイ女とベッドの上でだけって決めてんだけど…」
「え、あ、えっと…」
たじろぐ女性に、アランは舌舐めずりをする。
「オネーサンみてぇなイイ女と、な」
……よくここまでサラサラと口説き文句が出てくるものね…。
トドメとばかりに、アランは女の人の耳元で囁いた。
「ほら、通せよ」
――…結果として。
私たちは金属探知機を無事通り抜けることができたわけだけど。
「……何なのよ今のは」
後ろで未だ放心状態の彼女を見ると申し訳なくなってくる。
そう。アランの色仕掛けに負けた彼女は、口をパクパクさせながら金属探知機のスイッチを切ったのだ。
「さーて、ここの最上階にバーがあるみてぇだな」
当の本人は素知らぬ表情。
まさかこんなやり方で通るとは…色んな意味で恐ろしい男だ。
「予定よりは早く着いたか」
「……その余裕顔ムカつくわ」
「何か言ったか?」
「いいえ、別に。」
もはや睨み合いは恒例行事になっている。
「それより、早く着いたのなら時間があるってことでしょ?さっきの話の続き、教えてもらえるかしら」
「お前のその無駄な乳は好奇心の塊か?」
「煩いわね、デリカシーのない男は嫌いよ。さっさと話して」
「…ったく、分かったよ。その代わりこの話聞いても俺の生き方に口出すなよ。励ましの言葉もいらねぇ。同情されたってうぜぇだけだ。今じゃただの過去でしかねぇからな」
「同情…?私がそんな面倒臭いことすると思うの?金にもならないのに」
「………。」
心底信じられないとでも言うような目でアランを見ると、呆れ顔をされた。
しまった、墓穴を掘ったかも…と思ったけれど、それでもアランは溜め息混じりに話し出す。
―――“優秀組”の一員になってから数日が過ぎた。
ラスティとベルはいつも一緒にいた。
ブラッドは仕事部屋で黙々と作業ばかりして、俺にも仕事のこと以外では話し掛けてこなかった。
俺はと言うと、別にそこまで何かをやれと言われることもなかった。
そのくせ給料はなかなかで、何もしなくても金が入ってくる。
たまに4階にある訓練所で戦闘の訓練をさせられたが、何の為にやっているのかも分からない。
――…ラスティとベルが俺に初めて話し掛けてきたのも、俺が4階で訓練をしていた時だった。
その日の訓練は並べられた的をどれだけ速く銃で全て破壊できるか、なんていう面倒臭ぇもんで。
初めて銃を持ったのはこの時だ。
どうやら俺は銃との相性が良いらしく、すぐ使いこなせるようになり。
最初は遅かったが、的を壊すスピードも段々と速くなっていく。
……つーか、俺は何で銃の訓練なんかさせられてんだ?今後使うってことか?
脳の片隅に微かな疑問を抱きつつも、的を撃っていく。命中しねぇ弾はない。
そろそろ休憩すっか…と、銃を下ろそうとした時。
「――何この人、全然ダメじゃん。前の戦闘員の人の方がよっぽどうまかったのになぁ」
聞き慣れねぇ何とも高飛車そうな声が耳に入ってきた。
俺は銃を下ろさず視線だけ声の主の方へと向ける。
ヴァイオレットの猫目が見上げるようにして俺を捉えていた。
華奢で細いその身体には、ふわふわしたキャラメルブロンドの髪が垂れている。
…“ベル”だ。改めて対面するのは初めてになる。
「感覚神経の伝導速度はどんな人も大体一緒なんだよ?遅いか早いかなんて判断する時間で決まるの。どれだけ他の事を考えてないか…っていうか、どれだけ集中できてるかでこんなくっだらない訓練の結果は大きく変わる」
ペラペラとそう説明したベルは、馬鹿にしたように鼻で笑い、更にこう付け足す。
「アンタ、スタートの合図が鳴ってから撃ち出すまでの間があきすぎ。ぶらりんが戦闘員にするって言ってたからどんな人かと思えば…興醒め~」
ぶらりん…?はぁ?誰だよ。
「――ブラッドのことだよ」
ゾワリと全身に寒気が走った。
背後から、まるで俺の心を読んだかのように突然聞こえてきた声。俺は後ろに誰かがいることすら気付かなかった。
「そうそう、可愛いでしょ。お兄ちゃんもちゃんとぶらりんって呼んでよ?」
「何で僕まで…まぁいいんだけどさ、そう呼ばれた時のアイツの反応気になるし」
ベルから“お兄ちゃん”と呼ばれた男――つまりはラスティの気配を、俺は全く感じ取れなかった。
こんなにも妙…というか、異様な雰囲気だってのに。こんな兄妹が並ぶと落ち着かねぇ。
やっぱ兄の方もガリガリっつー言葉じゃ済まされねぇくらい細い。
表情や口調だけ見てりゃ割と元気そうだし、身体さえ気にしなけりゃ病的というわけでもない。
……つまりは身体が細すぎる。
「お前ら、ちゃんと食ってんのか?」
率直な疑問をぶつけてみれば、2人はきょとんとした顔をした。
そして直ぐにニコニコと返してくる。
「僕は甘いものよく食べてるよ」
「私も~2階にあるスイーツ専門店のやつチョー美味しいんだもん!」
2階のスイーツ専門店のやつって…オイ、あんな甘ったるそうなモン主食にしてたら病気になんぞ。
「他は何も食べてねぇのか?つーか1日何食だ?」
「僕は大抵飲み物で済ませてるかも。ちゃんとしたご飯なら3日に1回くらいは食べてるよ」
「私は……なんか、食欲わかないしあんまり……」
ベルは言葉を濁しつつ、自身の二の腕の辺りをきゅっと掴んだ。
さっきの偉そうな態度よりそんな風にしおらしくしといた方が普通の9歳児っぽくて可愛げあんのに。
「何でそんだけ食欲わかねぇんだ?」
「生まれつきそこまで食べてなかったからじゃない?」