“ラスティ”と呼ばれた男は、舞台に上がる。……は?何だあれ、細すぎる。
腰のラインが細すぎるどころか、手首や首元も、骨に皮膚が張り付いただけのように見える。


キャラメルブロンドの癖毛に、ヴァイオレットの瞳。細ぇくせに威圧感があって、奇妙な雰囲気を醸し出している。



――つーか、まだ餓鬼じゃねぇか。少なくとも俺よりは年下だ。



「ビックリしたか?」


いきなり隣から先輩が話し掛けてきた。


「あんな幼い奴でもなれんのか?優秀組ってのは」


調度良いし、と一番の疑問をぶつけてみる。

…しかし、


「普通はなれねーよ」


先輩はさらりとそう答えた。



「じゃあ何で…」


「世代交代だからできるだけ若いのを、ってのもあるけどアイツは――化け物だ」



“アイツ”という代名詞が指すのは、言わずもがな今舞台に立っている細ぇ餓鬼のことだろう。



「化け物…?」


「あぁ。お前は入ってまだ1週間くらいだから知らねーだろうが、6階じゃなかなか有名なんだぜ?」


「あの骨みてぇな奴が?」


「そーそー。実技テストでも最年少のクセに1位取りやがるしな。やり口がすげぇ巧妙なんだ」



俺はもう1度“ラスティ”を見る。


確かにタダの餓鬼じゃねぇような雰囲気だ。
『3人目、Bell』



響き渡るマイクを通した声音が、女らしき名前を口にする。


また周囲が騒がしくなった。隣にいる先輩の声まで届いてこなくなりそうだ。



先輩は“ベル”という名前を聞いてから、思い出したように舞台の方を指差す。


「ちょっと嘘言っちまったかも。“最年少”はラスティじゃねーわ」



――そこには、舞台へ上がろうとしている“見たところ10歳未満の”少女がいた。



「最年少はあの子。女の子に言う表現じゃねーけど、やっぱあの子も化け物だな。頭がキレる」


少女のふわふわのキャラメルブロンド色の髪は、腰の少し上の部分まで垂れている。


……こいつも相当細い。もっと太らねぇと怖ぇよ。


しかもあのヴァイオレットの瞳、やたらとラスティに似て……ん?



「あいつら、もしかして兄妹か?」


「おお、そうそう。似てるよな」


「……つーか、妹の方何歳だよ」


「たしか9歳だったと思うぞ」



9歳って…2桁もいってねぇじゃん。
体はまだまだ幼いくせに、兄のラスティ同様雰囲気だけは一丁前に大人っぽい。



さーて、最後はどんな奴なのか。


品定めでもするような気分で舞台を眺める俺。



しかし、


『―――4人目、Alan』


次の瞬間そんな余裕もなくなった。




「………あ?」


なんつった?“アラン”?はぁ?


思いっきり眉を寄せてしまう俺と、そんな俺を目を丸くして見てくる隣の先輩。


俺よりも驚いてんじゃねぇのかコイツ。



「おい、アランってあの新人か!?」「嘘だろ、入ってきてまだ間もないぞ!」「体力テストで化け物並みの成績とってた奴!?」「おかしいと思ってた、こんな時期に入ってくるなんて!」



周りのざわめきが激しくなる。


とりあえず同じ名前の他人ってわけでもねぇみてぇだ。


つーか“化け物”って…失礼な奴等だな。



「お、おい、すげぇなお前!一瞬夢かと思ったぜ!ほら、行けよ」



隣の先輩が興奮と驚きの入り雑じった表情で俺の背中を押す。
いやいや待てよ、優秀組ってのは事前報告も本人の意思も無視して無理矢理入らされるような所なのか?


断ることもできねぇのかよ。



そんなことを考えながら舞台へと上がっていく俺に、大勢の視線が集まる。



「―――――…」


舞台の上に立つブラッドと目が合った。


あぁコイツ――元々俺をこの優秀組に入れるつもりで拾ったんだな、と。


瞬時に悟った。



ブルーの瞳が、獲物を捕獲した肉食動物のように光っていたから。




―――こうして俺は、訳も分からねぇまま、“優秀組”の1人になった。
「―――着いたな」



アランが大きな建物の前に車を停めた頃には、もうすっかり暗くなっていた。



「行くか」


「…は?」


「あぁ?」


「ちょっと待ってよ、話の途中じゃない」


「その前にビジネスの途中だ」



アランの一言は的確すぎて、黙らざるを得ない。


アランに続き車から出る。夜にこの格好だとやっぱりまだ肌寒い。



車の鍵を閉め、先々歩いていくアランにそのまま早足で付いていく。



「途中なんて煮え切らないわ、いいところなのに。結局ラスティ君の妹については触れてないじゃない」
スパイとしてじゃなく、純粋にアランの過去が気になっている自分がいる。


つまり、アランは親に捨てられたホームレスだったってことよね…?


そこをブラッドさんが拾って、リバディーの優秀組にしたってわけだ。



「急かすんじゃねぇよ。こっからは俺もそこまで話したくねぇ内容だしな」


アランはそう言いながら自分の方の拳銃の弾を確認し、大きな建物の中へと入っていく。


私もよく分からないままその後を付いていく。



「分かったわ。でも言わないのはナシよ?」


「意外と知りたがりなんだな、お前。俺の過去なんか知ってどうすんだ」


「貴方のことを知りたいだけよ、どうもしない」



そう言うと、アランはピクリと眉を動かす。そして短い溜め息を吐いた。



「お前なぁ、そういうこと男に軽々しく言うんじゃねぇよ」
「あら、どうして?少なくとも私は貴方を男として認識しているつもりはないのだけど」



さっきの台詞が口説き文句にでも聞こえたなら勘違いも甚だしいわ。


しかし、さらりとそう言った私にアランは口許をひくつかせる。


「かっわいくねぇ…。」


私に可愛さを求めるのは大間違いだ。



「悪かったわね、卓球の球胸で返すような女で」


皮肉混じりに笑ってみせると、再びアランは「可愛くねぇ…」と言う。


そんな下らない会話をしながら建物内の通路を歩き続けた。



暫くすると、通路の奥の方に女の人が立っていることに気付く。


その後ろには空港にあるような金属探知機があり、ハッとしてアランに目をやった。



「ちょっと、何であんなのがあるのよ」
この建物の中にアランが話してたバーがあるんだろうけど、金属探知機なんかがあるんじゃ普通だとは思えない。


けれど、アランは何故か楽しそうで。



「此処が柄の悪ぃ連中のよく集まる場所ってのはマジみてぇだな」


「はぁ…?」


「この建物の奴等が警備厳しくしてんだろ、そいつらに物騒なモン持ち込まれても困るから。…にしても見張りを女にしたのはここの管理人の落ち度だ」



アランはいきなり私の手を取り、金属探知機の方へと向かう。


いやいやいや、私たち拳銃持ってるんだから反応するに決まってるでしょ?


止めようとしたけれど、金属探知機はもうすぐ近くに迫ってきている。


ここで止めたりしたらあの女の人に不自然だと思れかねない。



焦る私とは裏腹に、私の手を引っ張って2人同時に金属探知機を通り抜けようとするアラン。