せめてその口元のニヤニヤを隠す努力とかしないさいよ、その表情死ぬほどムカつく。



「別に…、ちょっとよろけただけ」



とは言っても1度倒れてしまうと痛みでなかなか起き上がれない。


起き上がってもう1度やり直せば歩くことくらいできるはずなのに。



「助けてほしいか?」


「……結構よ」


「じゃあそのまま這いつくばってろよ」
ポケットから携帯を取り出し私に向けるアランを見てまさか…と思ったけれどそのまさかで、数秒後シャッター音がした。


言わずもがな写真を撮られたのだ。




「…このクソ男…!」


「んー?何か言ったか?」


「今すぐ消して」


「立場をわきまえろよ」


「……やっぱり殴るのは10発じゃなく20発にしとこうかしら」



口元をひくつかせる私とは対照的に、そんな様子を見て笑みを深めるアラン。


その性格の悪さどうにかならない?と睨み付けた時、



「やっほー!何か面白そうなことになってるねー。僕も混ぜてー」



にこやかな笑顔で相変わらず異様な雰囲気を放つラスティ君がドアを開けて入ってきた。



私としては全く面白くないしラスティ君が来ると余計状況が悪化しそうだから是非混ざらないでほしい。
しかしよく見るとラスティ君の手には白い箱があった。


もしかしてあれは…私の朝食?



「あっれ、もしかしてアリスちゃん起き上がれない感じ?いいよいいよ、食べさせてあげる」


「……」



いやそこは体を起こす手伝いをするとかじゃないの?


アランといいラスティ君といい、考えがぶっ飛びすぎている。



「その箱スイーツ店のやつじゃねぇの?」


「そうそう、ミルフィーユ」



私が朝食にミルフィーユを食べるなんてどう考えたら思い付くんだろうか。


ミルフィーユってどっちかと言えばおやつの部類に入らない?



……というかまずラスティ君が食べたかっただけでしょう。



「はいアリスちゃん、あーん」



箱を開けてフォークでミルフィーユを一口サイズにしたラスティ君は、ニコニコとそれを差し出してくる。
その後ろではアランが笑いを堪えきれないのか口元を押さえながらプルプル震えている。



「……とりあえず起こしてくれない?そうすれば自分で食べれるから」


「えー。この状態の方が萌えるのに」


「殴るわよ」


「まぁ仕方ないか…あ、ちょっと待ってその前に写真撮るから」


「ちょっと…!」



ピロリロリン、と可愛らしいシャッター音がしてラスティ君にまで写真を撮られてしまった。それも満面の笑顔で。



どんだけ私が床に這いつくばってる写真が欲しいのよこいつらは。



「にしても派手にやられたねー。僕がいない間にそんな萌える展開があったなんてさぁ…実際その場にいたかったなぁ。仕事行かなきゃ良かったかも」



ラスティ君は愉しげに私の手を取り立ち上がらせてくれた。


少し痛かったけれど我慢すれば十分歩けそうだし、そこまで重傷でもなさそうだ。



「はいミルフィーユ」と少し残念そうに渡される。何か不満でもあるのかしら?食べさせてくれなんて頼まないわよ。
「今下の奴らに尋問を頼んでる。誰に雇われたかくらいすぐ吐くだろ」



と言いつつ私のベッドに腰を掛けるアラン。舌打ちしたい気分だ。



「話を聞いてて思ったんだけど、その団体の人たちに銃を盗むように指示したのも雇い主かな?」



ラスティ君もラスティ君でそう言いながら椅子に座り、箱の中からもう1つのミルフィーユを取り出す。


やはり自分が食べたかっただけのようだ。



「その辺はまだ分かんねぇよ。でもその可能性が高いだろうな」


「…ってことはその団体を雇った奴、銃の在処知ってるってことだよね?」


「問題はそこだ。銃を盗まれたのは6階にいる奴等の中の5人…自分の部屋に置いてたらしいが、それを盗まれたんだとよ」


「つまり6階に誰もいない時間帯も分かってたってことかぁ…これはもう、雇い主はリバディーの内部情報を知ってる奴ってことになっちゃうよね」


「内部情報を知っている外部の人間、しかもブラッドを狙ってるってことだな」



アランとラスティ君の話を聞きつつ黙々とミルフィーユを食べる。


ディナーを食べ終わらないうちにあんなことが起きてしまったわけで、お腹はかなり空いていた。
前に食べたチョコレートムースもそうだけど、この店のスイーツはどれも美味しい。



「萌えてきちゃったぁ」



ラスティ君は話をしているうちにいつもの何とも言えないアレがきたのか、恍惚とした表情を見せる。



内部情報を知ってる外部の人間…か。


内部から情報が漏れてるなんて噂が広まってスパイ探しに…なんて展開にならなきゃいいんだけど。


今回のことは私も関係ないしね。




「まぁ精々頑張って。私もまたあんなことが起こるのは嫌だし」



ただでさえこんな厄介な組織に来てるのに、あんな厄介なことが何度も起きたら本気で帰りたくなってしまうかもしれない。


無論、全ての任務を遂行するまで帰る気はないけれど。
「あ、そうそうアリスちゃん。ぶらりんが今日は仕事休んでいいってさ」



ふとラスティ君が私に向かっていつも通りのニコニコ笑顔でそう言う。
ミルフィーユを食べながら。


この怪我でも書類の整理くらいなら椅子に座ってできると思うんだけど…まぁ、休ませてくれるって言うならお言葉に甘えておこう。




「僕も休みだから1日中たっのしい話しようね~」


「……ちょっとブラッドさんに仕事ないか聞いてくるわ」



うん、やっぱりそうしよう。


ラスティ君と楽しい話?怖い怖い。



「オイオイ、今日は下の奴らが動いてんだから俺らは有り難く休むべきだろ」


「…アランも休みなの?」


「緊急事態にならねぇ限りはな。つーかブラッドも含めて今日はそんなに仕事ないんじゃねぇの」




昨日あんなことがあったから、それの後始末に集中してなかなか新しい仕事が回ってこないのかもしれない。
今日は日頃の疲れを取る為にももう少し寝ておきたい。


不謹慎だけど折角久々の休日なんだし。


この2人さえ出ていけば寛げるのに。



「…っていうか私、お風呂入らないと」


思考を巡らせていると何とか都合の良い理由が思い当たり、口にしてみた。



「その傷じゃかなり染みると思うけどなぁ」


「傷には当たらないようにするから大丈夫よ」


ラスティ君がすかさず文句を言ってきたけれど、適当にあしらう。


確か大浴場は5階よね。


6階の人たちは忙しいみたいだし、もしかしたら今の時間帯でもエレベーターが使えるかもしれない。



普段は9階にあるシャワールームで済ませるつもりだけど、ゆっくりお風呂に入る日も必要だ。



今度はよろけないようしっかりと立ち上がった私を見て、ラスティ君がつまらなそうな顔をする。



「ほんとに行っちゃうの?僕の相手してよ」


「嫌よ。休みの日くらい好きにさせてもらうわ」