深夜、彼らは静まり返った夜の街の片隅に立っていた。


僅かな光によって映し出されるぼんやりとした3つの影。


その周りには、どす黒い赤、赤、赤。



1人目の男は、気味の悪い笑みを浮かべながらヴァイオレットの瞳を細める。


「もーちょい綺麗に殺せないのー?」



2人目の男は頬に付く返り血を拭うと、気怠そうに欠伸をする。


「仕方ねぇだろ。暴れたんだから」



3人目の男は酷く冷たい眼で、もう動かない――いや、動けないソレを眺めて呟く。


「……まだ、見つかりませんね」



その言葉を耳にすると、2人の男の片方は退屈そうに伸びをし、もう片方は溜め息を吐いた。



「ほんっと無我夢中だよねー」


「いい加減諦めねぇのか?」



そんな2人の言葉など全く聞こえていないかのように、男は己を照らす月を一瞥して不快そうに目を半眼にし、再びソレに目を落とす。
血塗れのソレは、最早男にとって必要ない。


情報交換を目的として来たというのに、もう動かないソレは何も知らないと言った。


男が求めていた情報は男にとって、自分の全てを差し出してでも得たい情報だった。


――なのに“ない”だのと腑抜けたことを言うもんだから、こうなってしまった。


まぁ、情報を持っていたとしても結局は殺す予定の人間ではあったのだが。




「ソレの処理は君たちに任せます」



そう言って、2人を置いて去っていく男。


その冷たい眼には、ここにいないにも関わらず、きっと1人の人間しか映っていないのだろう。



残された2人は呆れたように顔を見合わせ、いつも通りの手順で処理を始めた。



「これくらい下の奴らに任せればいいのにね」


「正式な仕事じゃねぇんだからそうもいかないだろ」


「仕事じゃん?指名手配人探し」


「つっても、私欲でやってんだろあいつは」


「どうせ見つからないのにね。…あーあ、最近面白いことないなぁ。何か面白いことが起こればいいのに」


「そういや、もうすぐ新しい秘書が来るって言ってたな」


「えーまた?コロコロ変わるの面倒臭いんだよね。もう辞めさせないでよ?」


「何で俺に言うんだよ」


「いや、秘書が辞めてくそもそもの原因だし?」


「あいつらが勝手に寄ってきて勝手に辞めていくだけだ」


「寄ってきたのを苛めて辞めさせてる、の間違いでしょ」



片方の男はクスクス笑い、慣れた手付きで死体の処理を続けた。







“リバディー”


その中でも
桁外れな才能を持つ3人



しかし


その3人ですら
足取りが掴めない
指名手配人がいた



居場所も年齢も詳細も
不明



名前は“春”




分かっていることは――…

―――彼女が“    ”だということ





 ■



――この国が選択の国と呼ばれる反面、家族との繋がりが最も薄い国とも言われ始めたのはいつからなのだろう。


子供は一定の年齢になるまでに多様な選択肢の中から1つの組織を選び、親の元を離れ、顔を合わせることもなくなる。


この国での教育は組織の義務であり、数多くの全寮制国立組織が存在する。



そんな状況下で親との関係が濃いなんて人はそういない。



ただ、家族との関係が最も薄いとはいえ夫婦の関係が薄いわけではない。


家族間では夫婦だけが内部の人間、子供達は外部の人間という感覚が強いらしい。


どうせいなくなるのだから、子供は他人であり預かり物であるという感覚を持つ人が多いのだ。


それ故に子供に大した想いを持つ親も少なく、虐待や捨て子の多発が問題になっている。


私はこの国で生まれたわけではないから推測に過ぎないけれど、この国の大抵の家族は元々“子供達”と“夫婦”の2つに別れているように見える。


夫婦同士は仲が良く、子供達同士も仲が良い。


でも、親と子供の関係が他の国のような関係であるかと言えば…それは違う。





――私たちの組織は、今回そんな国に来ていた。
それは、軽い仕事が終わってすぐのこと。


これから寝ようと思っていたのに、雇い主の部屋に呼び出された。



「おっそぉい。10秒以内には来てくんない?」



……相変わらずの高飛車っぷりである。



「そこまで急ぎの用があるなら貴方から来ればいいじゃない」


「俺そんないっぱい走れないもん」




1日の半分は怠惰に過ごしているであろう目の前の男――私の雇い主は、いつもの調子。



まず21歳の男が猫なで声で語尾に『もん』を付ける時点で、私ならば殴りたい衝動に駆られる。



しかしこの男は似合ってしまうのだ。



メープルブラウンの綺麗な髪、まるで愛らしい少女のような顔立ち、自分が可愛いことを自覚しての行動、誰をも魅了する存在感。


左耳に光る少しワンポイントの入った白いピアスは私の右耳のそれと同じもの。



この男は外見が可愛いせいで寒気が走るようなぶりっ子発言をしても不思議と私以外の誰の気にも触らない。



「で、用件は?」


「あぁ、それね。実は新しい仕事先が決まったんだぁ」




ニンマリ、なんて表現が似合いそうな笑み。嫌な予感しかしない。
「あのねぇ…また?私、昨日仕事を終えて帰ってきたばかりよ」


「分かってるに決まってんじゃあん?」


「だったら私じゃなくて他の人に回してよ」


「その余裕顔崩したくってぇ、今回は今まで以上にリスキーな仕事頼んでみるつもりだよーん?」



その瞳は嗜虐的に光っていた。忌まわしい。



いい加減危険な仕事ほど私に回してくるのやめてくれないかしら?


…どうせそんな抗弁をしたって、愛情表現だのなんだの言って誤魔化されるんだろうけど。