楽しい思い出の中だけで生きていく事が出来るのはきっと漫画やドラマの世界だけ。
ああいうのは途中で挫折を味わってもそこから堕ちる事なく前を向き、必ずハッピーエンドへと向かう。
1日の始まりがこんなにも憂鬱で絶望的なのはきっとまだ私の時間があの時から進んでいないから。
周りは前を向いて歩き出し、私だけがそれに逆らって歩いているような。
…留まっているような。
苦しくて、苦しくてたまらない。
コンコン、と部屋のドアをノックされたのはブラインドから差し込む朝日に目が覚めた時だった。
そして無遠慮にドアが開き、ブラインドが上げられ太陽の光が一気に部屋に流れた。
「海?そろそろ起きなさいよ」
「……起きてるよ」
「準備しなさいって言ってるの!」
スマホで時刻を確認すると、家を出る30分前だった。
…確かに、そろそろ起きて準備しなければ。
「空人くんもう来てるわよー」
私の部屋から出ると同時にそんな言葉を残した我が母親。
「…は、」
まだ覚醒しきれていない思考回路がピシッと音を立てて止まったのが分かった。