沈むような微睡みの中、声がした。
『海?おーい、海ってば』
知っている。
聞き慣れた、愛おしい大好きな声。
『ごめんね』
謝らないでほしい。
謝らなくていい、いいから、ずっと傍に居て。
『俺、海の事好きだよ』
『はいはい、もう分かったってば』
『違う、本当に海の事』
『…え』
『ずっと、小さい頃から好き。海の事じゃないよ、御厨海が好きなんだ』
少しずつ暗くなっていくオレンジ色で染められた雫玖の部屋。
空人は部活で居なくて、私達は2人きりだった。
高校に入って最初の夏休み前。
うるさいはずの蝉は静かになって、世界に私と雫玖の2人だけになったんじゃないかって思うくらいの衝撃だった。
『海、ごめんね』
どうして急に居なくなったの。
そばに居るって言ったのに。