会社の連中が心配してると

さて、語らせてもらいますは、拓也という男の心の旅路。雪はどんどんひどくなり、視界は2メートル先すらも見えん状態や。トラックの運ちゃんたちは慣れたもんで、100キロのスピードでガンガン追い越していく。それに比べて、拓也は最低速度の60キロで、慎重に走り続ける。

ようやく関門海峡に差し掛かり、雪もようやく止んだ。拓也はほっと一息ついて、家へ電話をかけることにしました。
「俺、今、車で帰ってるんや。今、北九州やから」
「用心して帰ってこいよ」と父の言葉が返ってきました。

それから2時間ほどが経ち、拓也は無事に家へ到着。家の風呂に浸かりながら、また頭に浮かんでくるのは自分の病気のことや。統合失調症。現代の病気は、精神と神経の狭間をさまようやっかいなものや。うつ病とはまた違う種類の病気で、破滅型と言われるその病気は、何十年も閉じ込められている人たちもいる。俺はその破滅型の失調症かもしれん、そんなことを考えながら、彼はふと、妄想の世界に引きずり込まれる。

天皇陛下の関係やら、テレビからテレパシーが送られてくるような妄想に襲われていたこともあった。でも、今は被害妄想はなくなった。今度は潜在意識、自分の思っていることが現実に具現化してしまう――そんな感覚や。
「俺、普通に働けるかもしれん。でも違うんや、病気が俺の後ろに、いつもついて回るんや」。自分の病気の存在を、冷たい現実として感じている拓也。

「うっ、さて寝るか」。やっとのことで睡眠薬が効き、久しぶりに8時間の睡眠をとることができた。そんな中、妹から聞いたトム・クルーズも知的障害があるらしいという話を思い出し、ふと思索にふける。読書に集中できなくても、映像なら頭にスッと入ってくる――彼はそんな自分を再発見し、自分流に物事を解釈していくことに喜びを見出すんや。

でも、心の中ではまだ悩みが深い。「体は元気やけど、頭の中は弱々しい」。誰にも話すことのできないその悩みを抱えながら、彼はただ自分を保つために、薬を飲み続けることしかできない。

「会社の連中が心配してる? 笑わせるな。どうせ陰では、あいつ頭おかしくなったって噂してるに違いない。俺はそんなやつらのために電話なんかせえへん。死んでも電話なんかするか!」

それでも彼は、精神のバランスを取るために病院へ行き、薬を追加してもらう。少しずつ、落ち着きを取り戻していく拓也。しかし、彼は決心した。「もう関東には帰らない。福岡で精神病院に通うんや」と。

そして、待合室に座る拓也。12年ぶりに再会した由美という女性と、懐かしい話をしながら、彼は少しだけ心が軽くなる。
「私、太った?」
「いや、昔の体型なんて覚えてないな」と他愛ない会話が続く。

そんな日々の中で、彼はふと思い出す――関東で忙しく働いていた頃のことを。薬は父に頼んで、病院には顔も出さず、仕事に追われる日々。そんな中、突然の主治医との対話で告げられた診断。
「君は統合失調症や。昔は精神分裂病と呼ばれていた」。

その言葉に、拓也は目の前が真っ白になり、椅子から転げ落ちそうになった。だが、それでも彼は気力で立ち上がり、社会復帰を果たしてきた。その強さが、これまでの彼を支えてきたんや。

拓也の人生、葛藤と闘いながら、それでも生きる――これが、彼の浪花節や。