「ディアンヌ嬢、よければ私と結婚してくれないだろうか?」

「──ブフェ!?」


抑揚のない声から淡々と告げられる言葉に、ディアンヌの口から紅茶が吹き出てしまう。
近くにあった布で急いで口元を拭う。
ディアンヌはまさかリュドヴィックから直接『結婚してほしい』と言わるとは思わずに驚いてしまう。

(聞き間違いではないわよね? でもこんな形で結婚を決めて、リュドヴィック様は後悔しないのかしら……)

ディアンヌは互いを思い遣り、愛し合っている両親の姿を思い出す。
リュドヴィックとディアンヌの間にそういった感情はない。
それと同時に昨日はロウナリー国王の話に否定的だった彼が、どうして結婚を決めたのか疑問に思っていた。


「リュドヴィック様は、王命に従うということでしょうか?」

「ああ、あれは半分冗談で半分本気だろう」

「……!」


どうやらロウナリー国王と幼馴染であるリュドヴィックには、彼が昨日、どういう意図で『結婚しろ』と言ったのかはわかっていたようだ。

(でもどうして急に前向きになったのかしら……)

リュドヴィックは冗談を言っている様子はない。
ディアンヌの考えを見透かすようにリュドヴィックは理由を説明してくれた。


「昨晩、じっくりと考えたのだが……私には君との結婚はメリットしかないんだ」

「メリット、ですか?」

「もちろん無理強いするつもりはない。君にとってもいい条件を提示させてもらうつもりだ」