マリアが涙を拭い、にこやかに笑った時だった。


「──ディアンヌッ!」


遠くからディアンヌを呼ぶ声が聞こえたような気がした。
気のせいだと思っていたが、小さな足音と扉を開け閉めする音が徐々にこちらに近づいてくる。


「ディアンヌ、どこにいるの? ディアンヌ……ッ!」

「お待ちください、ピーター様っ」


どうやらピーターがディアンヌを呼びながら、廊下で叫んでいるようだ。
しかし、この足ではピーターの元に行けない。
ディアンヌはどうするべきか戸惑っていると、マリアが扉の外へ出る。


「ピーター様、ディアンヌ様はこちらのお部屋でおやすみになっておりますよ」


マリアの声に反応したのか、小さな足音がこちらに近づいてくる。
そして目を真っ赤に腫らしたピーターがディアンヌの元に突進してくる。


「ピーター?」

「──ディアンヌッ!」

「グフッ……!?」


腹部に食い込む小さな頭にディアンヌの口から蛙が潰れたような声が漏れる。
マリアの「きゃっ……!」と、叫ぶ声が聞こえたような気がした。
ディアンヌは勢いのまま後ろに倒れ込んでしまう。