そこには隣国の情勢が傾きつつあり、争いに巻き込まれたため、一時的に匿ってほしいとの内容があったそうだ。
肝心の父親や国の名前は血が染みて見えなかったが、なんとか隣国にあるペールジェス王国にいたことは読み取れたそうだ。
子供の名前はピーター。
決め手となったのはピーターが「母上」と呼んでいた人物がアンジェリーナだったことだ。

前公爵は反対したそうだが、リュドヴィックがピーターを引き取ると決めたのが一ヵ月前。
ピーターの面倒を見ることを決めたのだが、宰相を勤めているため多忙だ。
ピーターがリュドヴィックのそばに常にいたがるため、仕方なく城やパーティーに連れていくものの、毎回のように騒ぎを起こす。
誰にも懐くことなく母親を恋しがるピーターに振り回されっぱなしなのだそうだ。
ロウナリー国王に協力を求めて、ベテランの乳母のエヴァを呼んだものの状況は変わらずだったそうだ。


「ディアンヌ嬢はどうしてピーターに好かれたのだろうか?」

「特別なことは何もしておりませんが……」


何故ピーターに好かれているのか、ディアンヌにはまったくわからなかった。
強いて言うならば弟たちと同じように扱っているだけである。
リュドヴィックは髪をかき上げた後に、小さくため息を吐いた。
よく見ると目の下には隈がひどく、疲れているように見える。