「改めてピーターの件、ありがとう」

「いえ……」

「今日はゆっくり休んでくれ」

「はい、ありがとうございます」


ディアンヌが頭を下げると、先ほど説明を受けていたカトリーヌが「こちらにどうぞ」と、低い声を出す。
しかしディアンヌは「はい」と返事を返したものの、その場から一歩も動くことはできない。


「ディアンヌ様、どうかされましたか?」

「えっと、あの……」

「ふざけていないで、早くしてくださいませ」


カトリーヌの苛立ちを滲ませた声が聞こえた。
そしてディアンヌにしか聞こえないように「どんくさ」と、吐き捨てるように言った。

(……この人、裏表激し過ぎだわ)

チラリと足元に視線を送り一歩踏み出すも、激痛に顔を歪めて止まってしまう。
カトリーヌの苛立ちに満ちたチッと舌打ちが聞こえた。

(もう少しだけ、がんばらないと……! 何を言われるかわからないもの)

そう言い聞かせたディアンヌが無理矢理足を動かそうとした時だった。
リュドヴィックがディアンヌの前で足を止めるとこちらに手を伸ばす。


「気づかなくてすまない」

「……え?」