ベルトルテ公爵邸に入ると、もうすっかり夜が更けていた。
ピーターも熟睡したのか、エヴァが彼を抱え上げても起きることはない。
ディアンヌはズキズキと痛む足元を見た。
包帯を巻いてもらったはずなのに血が滲んでいる。
捻った足は真っ赤に腫れている。
ピーターを抱えながら歩いたことが、とどめとなってしまったようだ。
その場でハイヒールを脱ぐわけにもいかずに、ディアンヌは痛みに耐えるしかなかった。

(それにしてもすごい屋敷だわ)

ディアンヌの想像を遥かに超える豪華な装飾品。
真っ赤な絨毯に壁に飾られている高級そうな絵や壺を見て、ゴクリと唾を飲み込んだ。
まるで絵本の世界に迷い込んでしまったようだ。

これ以上、足を動かせずに震えていると、リュドヴィックが侍女たちに指示を出しているのが見えた。
ライトブラウンの髪を二つにまとめているカトリーヌと呼ばれた侍女は、リュドヴィックを見て明らかに顔を赤らめている。
しかし彼の話を聞いた瞬間、驚いていると思いきや、すぐにディアンヌに敵意のこもった視線を送ってくるではないか。

(これは……なんだか不穏な予感ね)

改めてリュドヴィックを見るが、彼は彫刻のように美しい。
こんな男性がいるのかと思うのは前世の記憶が蘇ったからだろうか。
そんな彼と目があったディアンヌは軽く会釈すると、リュドヴィックはこちらにやってくる。