ディアンヌはその場で盛大に転んでしまう。
その行動にはジェルマンは驚いているようだが、令嬢たちはシャーリーと同じように吹き出していた。
絶対絶滅の状況だった。
ここまで落ちぶれてしまえば這い上がることなどできはしない。
そう思っていたのに……。

「……大丈夫か?」

ディアンヌを救ったのは予想外の人物だった。
リュドヴィック・ベルトルテ。
この国の宰相でシャーリーと同じ歳くらいの令嬢たちどころか、夫人たちからも絶大な人気を誇る公爵だった。

その理由は端正な顔立ちと男性とは思えないほどの美しさにある。
それに加えて頭もよく、彼は国王の幼馴染だ。

彼と結婚したい女性がこの国にはごまんといるだろう。
それはシャーリーも同様だった。
彼の美しさはジェルマンなど足元に及ばない。
すべてを持ち合わせた手が届かない存在……それがベルトルテ公爵だった。

最近、事故で亡くなった姉の子どもを引き取ったらしい。
彼女は駆け落ちして行方不明だったと噂が流れていた。
シルバーグレーの髪と宝石のようなロイヤルブルーの瞳をただ見つめていた。
神々しさすら感じるリュドヴィックにシャーリーはうっとりしてしまう。
彼はディアンヌを抱え上げて会場を去って行ってしまった。
パートナー同伴のパーティーだが、会場の女性の視線を一瞬で奪い去ってしまう。
皆、彼の行動に賞賛の声を上げる。

(どうしてベルトルテ公爵がディアンヌを……?)

シャーリーは親指の爪を噛んだ。
最後に起きた予想外の出来事に今までのいい気分は焦りに変わっていく。

(た、たまたまよ! 何もあるわけないじゃない。あるわけないのよ……!)

シャーリーは扉を見ながら、妙な胸騒ぎを感じていたのだった。



(シャーリーside end)