急がなければパーティーが終わってしまう。
エヴァが呼び止める声も聞こえることなく、ディアンヌは走り出す。
今度は転ばないようにとドレスの裾を持ち上げてハイヒールで痛む足を必死に動かしながら会場に戻る。

パーティー会場は先ほどよりも人で溢れている。
ひとまずパーティーが終わっていないことに、ディアンヌは安堵していた。
なんとか会場に戻り、壁の端に移動しようとするが、先ほど転んだ影響かディアンヌはすっかり注目の的になってしまったようだ。
盛大に転んで医務室に運ばれたとなればそうなるのも当然だろう。
それにこのパーティーでは親しげな男女が共に参加しているような気がするが、気のせいだろうか。
居心地の悪い視線を感じながら、会場の端へと移動しようとした時だった。


「あーら、本当に来たのねぇ!」

「……シャーリー?」


シャーリーは豪華なドレスを纏いながら、こちらにやってくる。
もう二組、令嬢と令息が彼女の背後に続いて立っていた。
シャーリーの隣にはライトグリーンの髪にブラウンの瞳を持った端正な顔立ちの令息がいる。
侯爵家の令息、ジェルマン・ラバードだった。
学園では端正な顔立ちをしており、かなりモテていた令息だ。
そんなジェルマンはシャーリーの婚約者のようだ。
そしてディアンヌを取り囲むようにして笑っている。


「素晴らしいパーティーに田舎から出てきた貧乏男爵令嬢が一人でいるなんて信じられない……!」


シャーリーの嫌味にいつもなら笑って誤魔化すディアンヌだが、記憶が戻った後ではそうはできない。


「そんな言い方……ひどいわ」