どうやら転んだ時に足を思いきり捻ってしまったようだ。
男性は「足が痛むのか?」とディアンヌに問いかけた。
小さく頷くと男性は躊躇いもなく、ディアンヌの体を抱え上げる。


「……!」

「このまま医務室に運ぶ」


前世含めて男性経験がまるでないので、これだけで顔が真っ赤になってしまう。
ディアンヌを抱えたまま静かな廊下を歩いていく男性。
沈黙に耐えかねて、ディアンヌは慌ててお礼を言った。


「あの、ありがとうございます。助かりました」

「いや……お礼を言うのはこちらの方だ」

「……え?」


噛み合わない会話にディアンヌは首を傾げた。

(どうしてわたしがお礼を言われるのかしら?)

もしかして知り合いなのかもしれないと名前を問いかける。


「あの、お名前を聞いてもよろしいでしょうか?」

「…………」


唇は固く閉ざされたまま、何も語られることはない。
余計なことをしてしまったかもしれたいとディアンヌが反省した時だった。


「……リュドヴィックだ」


この出会いがディアンヌ・メリーティーの運命を大きく変えてしまうなんて、この時は思いもしなかった。


* * *