もうシャーリーには関わらない方がいいだろう。

前にある鏡にはストロベリーブラウンの髪と薄いピンク色の瞳が映っている。
日本人の黒目と黒髪ではないことで違和感を覚える。
今は化粧をしていないが、目鼻立ちははっきりしていてそばかすは可愛らしい。
ディアンヌはそのままでも十分、可愛らしい。
ドレスや髪型さえちゃんと選べば、誰かに見初めてもらえるくらい魅力的だと思う。
今は真逆の雰囲気のドレスや高すぎるヒールのせいで、本来のよさも消されてしまったが。
前世の記憶が戻ったばかりだからか、アン視点で物事を見てしまう。
ディアンヌは今すぐにパーティー会場に戻らなければと思っていた。
パーティーが始まった時には日が沈んで空がオレンジ色だったのに、今は真っ暗で空には月や星が見えたからだ。
時間がない、それだけは自然と理解できた。
簡単に髪を整えて、ドレスの裾を持ち上げて部屋を出る。

すると、目の前に小さな男の子が心細そうに立っていた。
心細そうに服の裾を握っている少年は、ホワイトシルバーの髪にライトブルーの潤んだ瞳をこちらに向けている。

(ま、まさかこの世界には天使がいるの……?)

そう思うのも無理はないほどに可愛らしい少年だ。
しかし今は家族の運命がかかっている。
このままでは何の成果もないままメリーティ男爵領に帰らなければならなくなってしまう。
ディアンヌはパーティー会場へ足を進めようと一歩踏み出す。
けれど泣きそうになっている少年が気になって仕方ない。
何より弟たちと姿が重なってしまう。

(……この子を放ってパーティーに戻れないわ!)