真っ暗な景色の中、コンクリートでできた建物が聳え立っている。
行き交う人や車、画面には映像が流れていく。

(ここは日本で……あれはコンビニに自動車、ビルに信号機?)

知らない景色のはずなのに、スラスラと名前が出てくる。
そのことを不思議に思っていると、自分が日本に住んでいた記憶が蘇ってくる。

(そうだわ。わたしはアン、井出アンだった……!)

フルーツが大好きでパティシエを目指していた。
専門学校の帰り道、新作のスイーツを大量に購入した。
複数のバイクの音が聞こえて目の前が明るくなった瞬間……。
井出アンとしての人生が終わってしまったのだ。
どうやら頭をぶつけたことで、前世の記憶を思い出したようだ。
ディアンヌと同じ五人姉弟の長女で、貧乏だったのも同じ。
アンとディアンヌはまったく同じ境遇だった。
高校三年間、ずっとアルバイトをして貯めたお金で専門学校に通えたのだ。
夢半ばでバイクに轢かれて生を終えてしまったことを思い出す。


「──そんなのあんまりだわ!」