アプリを起動して
慣れた手つきでタクシーを呼んだ



10センチ以上のヒールを履いて
マンションでて、タクシーに乗る。


「お客様、お名前よろしいですか?」


「きらりです」


タクシーですら、源氏名を使ってる自分に
毎度のこと少しの嫌悪感をいだきながら


「AKビルまで」

と、私は無愛想に自身の勤めているキャバクラのビルの名前を言った。



煌めくネオン街を横目に
お客様へ来客を催促する、媚びついたLINEをおくっていると
一本の電話が鳴った
お金持ちな客の池田という男からだった。



「昔の先輩がやってる、ホストクラブがあるから1時間、同伴するから付き合ってほしい。」


二つ返事で了承すると、男はビルの下で私を待っていた。
営業のやる気スイッチをここで入れ、笑顔で池田に駆け寄る。



「お待たせ!珍しいね、池田さんが同伴で飲み屋さん、しかもホストに誘ってくるなんて、ビックリしちゃった!」

「まぁ、先輩のとこに顔出す時、1人は気が引けてね」

「そっか、でも誘ってもらって嬉しいな!
行ったこともなかったから、いい勉強になりそう!」


池田と腕を組み、そのホストクラブが入ってるビルまで歩き出す。
繁華街に飲みにくる男は、よくキャバ嬢を連れて他の店にも行く。ようはモテてる自慢をしたいのだ。

全くくだらない、、、、、



でも、これが今の私の価値。
心の中でため息つきつつ、ビルのまでの道のりの中、昔の思い出に心を馳せていた。




3年前、私は専門学校にて看護師になる勉強をしていた。
しかし、看護師になりたいと強い意志がなく、なんとなくで進路を決めた私にとって、甘くない学校生活はとても苦痛だった。
そして、友達の紹介で流されるようにキャバ嬢になり、バイトからフル出勤、あれよあれよと学校はすぐにやめてしまった。
まぁ、夜の世界ではよくある身の上話である。
その後、親に縁を切られ、この世界にどっぷり浸かることとなった。



こんなことを思い返しているうちに
お店の前まできた。少し緊張する。
池田を立てつつ、同じ飲み屋(ホスト)のひと相手にいい立ち回りができるのか、、、、


「さすがに緊張してる?」
池田が煽ってくるように、ニヤニヤしながら質問する。


「全く」
強気にわたしも笑いながら返す。


池田がエスコートしてくれながら
私たちは、店内へつながるドアに手をかけた。