──はずだったのだが。それからというもの、一人ぼっちであることなど忘れるくらいの忙しい日々が始まった。
 レベルの高い塾の、その中でも更にレベルの高いコースを張り切って選んだせいである。
 『こんなペースじゃ受かりませんよ』と脅されて一気に詰め込まれた受験勉強。そこに学校のテストや生徒総会の準備も加わり、その上地球温暖化による地獄のような暑さ。自分をなかなかの努力家だと自負している美紀も流石に疲労を覚えていた。
 身体が重い。視界がぼやける。脳が働かない。
 数多先生の面白い授業さえ何も頭に入ってこない。気を抜くと机に突っ伏しそうになる。

「……最上さん、大丈夫?」

 いつの間にか寝ていたらしい。数多の声でハッと我に返り、慌てて立ち上がった。

「はい、その問題の答えは15です!」

「えっと、何も聞いてないけど……」

 起きたつもりが寝ぼけていたらしい。周囲からクスクス笑い声が起きる。生徒会長、そして教師を目指す者としてあるまじき失態である。

「……申し訳ありません、今後は気を付けます」

 情けなさに唇を噛み締めながら深く謝罪する。それからすぐさま席につき、板書に取り掛かる。

「全然いいけど、本当に大丈夫?」

「はい、続けて下さい」

 一心不乱にペンを動かす。数多の顔は直視できなかった。心配されるより怒ってもらう方が気は楽だっただろう。これ以上同情を買いたくない。
 しかし意に反して眠気は収まらず、授業の後半はノートの字がほぼ読めなくなっていた。