「望月、これ──」
「やっておきました!! そっちの机にあります!!」
「望月、コンサルの書類だが……」
「あぁ、それならあっちにありますよ。取ってきますね」
「すまん望月。この書類、頼めるか?」
「はい!! 今日中にやっちまいます!!」
このテンポ感に慣れてきた今日この頃。
最近では私たちのことを【月々コンビ】と呼ぶ人が増えてきた。
部長の手腕のおかげで業績もアップし、皆の士気も上がってるし、仕事が楽しくなってきた、ある日のことだった。
「知ってる? 部長って、美沙の婚約者候補としてわざわざ本社からここに来たんだって」
「えー!? 美沙って専務の娘よね!? 出世コースじゃない!?」
いつものごとく昼食を食べながら執筆をしていた私の耳に、そんな噂が飛び込んできた。
矢吹美沙さん。隣の部署のマドンナで、専務の娘。
へぇ、そっか……そんな理由が……。
何だろう、なんかモヤっとするのは。
「相変わらず陰気臭いわね、この部署」
甲高い声が耳を貫く。
──美沙さん。
「ん?」
「!!」
しまった!! 目が合っちゃった!!
「嫌だわ、柚月さんに会いに来たのに、変なのと目が合っちゃった。っていうか、昼休憩にまで妄想ごっこやってんの? 陰気が移るじゃない」
「っ!!」
目つけられた。
一度絡まれると面倒なのよね、この人。
「いい歳して、青臭い話ばーっかり書いて夢ばっか見て妄想しないで、現実見たら? くだらない」
「っ……!! くだら……ない……」
夢? 妄想? それがそんなにダメなの?
だって、だって私は書いているのは──。
「誰かに夢を配る仕事が、そんなにくだらないか?」
「!!」
「柚月……部長……!!」
いつの間にかすぐそこに柚月部長が、まさしく鬼のような形相で立っていた。
「俺は、望月のやってることは素晴らしいことだと思う。……まぁ、休めるときには休んでもらいたいし、心配にはなるがな」
そう言ってさっきまでとは違う優しい眼差しで私を見下ろした部長に、胸が熱くなる。
「ゆ、柚月さ……」
「で? 矢吹。俺に何か用事があったんだろ? あっちで聞くから、他のやつに絡むな。行くぞ」
部長に連行される矢吹さん。
二人の後姿を見つめながら、私は未だ鳴り続ける胸の鼓動を必死で抑えるのだった。
***
「すまないな、仕事終わりに」
夕方、私は部長に呼び止められ、屋上に呼び出されていた。
「いえ、どうしたんですか? 私、何か──」
「あれから大丈夫だったか? 矢吹のこと」
あぁ、そのことか。
あの後二人で私の事でも話をしたんだろうか?
私とのコンビについて嫉妬した婚約者予定の女性に、必死で弁明したんだろうか?
……なんか、もやもやして気持ち悪い。
「別にあれ以降は何も。……くだらないって言う人がいることくらい、わかってますし」
どんなに真剣に向き合って書いても、それを下らないと一蹴し嘲笑の中に晒す人はいる。
作品を世に出すからにはそれはつきものだと、わかっていたのに。
脳の理解はできていても、心は傷を負う。
「……くだらなくねぇよ」
「え……?」
静かな否定の声がぽつりと耳に届いて顔を上げると、まっすぐに私を見つめる部長の顔。
「お前が紡ぎだす夢が、誰かの中で光になる。だから、くだらなくなんかない」
「!! それ……」
『誰かが紡ぎだす夢がまた誰かの中で光になる。この作者さんの作品は、どの作品もそんな風に感じて、白兎は好きです』
白兎さんの、言葉……。
じゃぁやっぱり──。
「あなたが……白兎、さん?」
「やっておきました!! そっちの机にあります!!」
「望月、コンサルの書類だが……」
「あぁ、それならあっちにありますよ。取ってきますね」
「すまん望月。この書類、頼めるか?」
「はい!! 今日中にやっちまいます!!」
このテンポ感に慣れてきた今日この頃。
最近では私たちのことを【月々コンビ】と呼ぶ人が増えてきた。
部長の手腕のおかげで業績もアップし、皆の士気も上がってるし、仕事が楽しくなってきた、ある日のことだった。
「知ってる? 部長って、美沙の婚約者候補としてわざわざ本社からここに来たんだって」
「えー!? 美沙って専務の娘よね!? 出世コースじゃない!?」
いつものごとく昼食を食べながら執筆をしていた私の耳に、そんな噂が飛び込んできた。
矢吹美沙さん。隣の部署のマドンナで、専務の娘。
へぇ、そっか……そんな理由が……。
何だろう、なんかモヤっとするのは。
「相変わらず陰気臭いわね、この部署」
甲高い声が耳を貫く。
──美沙さん。
「ん?」
「!!」
しまった!! 目が合っちゃった!!
「嫌だわ、柚月さんに会いに来たのに、変なのと目が合っちゃった。っていうか、昼休憩にまで妄想ごっこやってんの? 陰気が移るじゃない」
「っ!!」
目つけられた。
一度絡まれると面倒なのよね、この人。
「いい歳して、青臭い話ばーっかり書いて夢ばっか見て妄想しないで、現実見たら? くだらない」
「っ……!! くだら……ない……」
夢? 妄想? それがそんなにダメなの?
だって、だって私は書いているのは──。
「誰かに夢を配る仕事が、そんなにくだらないか?」
「!!」
「柚月……部長……!!」
いつの間にかすぐそこに柚月部長が、まさしく鬼のような形相で立っていた。
「俺は、望月のやってることは素晴らしいことだと思う。……まぁ、休めるときには休んでもらいたいし、心配にはなるがな」
そう言ってさっきまでとは違う優しい眼差しで私を見下ろした部長に、胸が熱くなる。
「ゆ、柚月さ……」
「で? 矢吹。俺に何か用事があったんだろ? あっちで聞くから、他のやつに絡むな。行くぞ」
部長に連行される矢吹さん。
二人の後姿を見つめながら、私は未だ鳴り続ける胸の鼓動を必死で抑えるのだった。
***
「すまないな、仕事終わりに」
夕方、私は部長に呼び止められ、屋上に呼び出されていた。
「いえ、どうしたんですか? 私、何か──」
「あれから大丈夫だったか? 矢吹のこと」
あぁ、そのことか。
あの後二人で私の事でも話をしたんだろうか?
私とのコンビについて嫉妬した婚約者予定の女性に、必死で弁明したんだろうか?
……なんか、もやもやして気持ち悪い。
「別にあれ以降は何も。……くだらないって言う人がいることくらい、わかってますし」
どんなに真剣に向き合って書いても、それを下らないと一蹴し嘲笑の中に晒す人はいる。
作品を世に出すからにはそれはつきものだと、わかっていたのに。
脳の理解はできていても、心は傷を負う。
「……くだらなくねぇよ」
「え……?」
静かな否定の声がぽつりと耳に届いて顔を上げると、まっすぐに私を見つめる部長の顔。
「お前が紡ぎだす夢が、誰かの中で光になる。だから、くだらなくなんかない」
「!! それ……」
『誰かが紡ぎだす夢がまた誰かの中で光になる。この作者さんの作品は、どの作品もそんな風に感じて、白兎は好きです』
白兎さんの、言葉……。
じゃぁやっぱり──。
「あなたが……白兎、さん?」