グルゥ……

 小さく喉を鳴らすようなうめき声を上げたドラゴンは、たじろいだように一歩下がる。
 驚いたのだろうか?
 何にせよ近付いても襲ってくる様子は無い。
 やはり野生の凶暴なドラゴンとは違うようだ。

「あなたは優しい子なのね。もしかして、竜騎士様のドラゴンなのかしら?」

 あまりに大人しいのでその可能性が高い。
 だが、この国に竜騎士はいないはずだ。
 昔のように外国の使者が来ているという話も聞かない。
 何より、本当に竜騎士のドラゴンだったとしても何故この侯爵邸にいるのだろうか。

 疑問は絶えないが、抱きついたドラゴンの鱗の感触にまともな思考が出来なくなっていく。
 ひんやりとした質感。
 けれど生きているドラゴンの鱗からはその体温も感じ取れて、ミリアは感動を覚えた。
 欲が抑えきれず、思うままに抱きついている首を撫でる。

(素敵……ああ、こんなところで夢が叶うなんて! 私もう死んでも良いわ!)

 優しくドラゴンを撫でながら、ミリアの心の中は興奮で荒れ狂っていた。
 ドラゴンがジッとしているのを良いことに、そのまま頬をすり寄せてみる。
 収集物(コレクション)の鱗たちも素敵だが、生きているからこそ微妙に色艶が変わる鱗は格別だ。
 しかも青銀の鱗など見たことも聞いたこともない。
 とても貴重な体験に、ミリアは内心昇天してしまいそうだと思った。

 グル、グルルゥ……

 くすぐったかったのか、ドラゴンは笑うように呻き僅かに身を捩る。