誰何(すいか)の声を掛けるべきか、それともすぐにウェッジを呼び寄せるべきか。
 迷っている間にそれは姿を見せた。

「――っ!」

 驚きで息が止まる。
 あり得ない。
 それは、このような場所にいるはずのないものなのだから。

 ガサリとまた音を立て、それは一歩茂みから出てくる。
 ミリアの倍以上あるその体の半分が見えた。
 青みがかった銀色の鱗で全身を包み、見ただけで力強さを感じさせる体躯は威圧感がある。
 爪は柔らかい地面を抉り、また一歩そのドラゴンはミリアに近付いた。

(ど、ドラゴン? ほ、本当に!? とても綺麗!)

 あまりにもあり得ない状況に、いつも口うるさく聞かされていたウェッジの言葉も頭の中からすっぽ抜けてしまう。
 ただただ目の前の美しいドラゴンに魅せられた。
 ミリアを探るようにジッと見つめてくる灰青色(はいあおいろ)の目が、とても澄んでいる様に見えたのも要因だったのかもしれない。

 ミリアが動かないからだろうか。
 青銀の美しいドラゴンはゆっくりとまた一歩近付こうとしてくる。
 その様子にミリアは思わず制止の声を上げた。

「あっ、ダメ。それ以上来てはダメよ」

 言葉と共に、思わずその太い首に抱きつく。
 茂みはウェッジのいる場所からは死角になっているが、これ以上進んでしまうと見えてしまう。
 話に聞いていたドラゴンは凶暴らしいが、このドラゴンは少々様子が違うように見える。
 害はなさそうなのに、討伐対象にされてしまうのはかわいそうだ。