「……でも、やっぱりまた生きているドラゴンを直接撫でてみたいわ」
「それだけはおやめください!」

 ほんの少しこぼしてしまった言葉に、ウェッジの強い制止の声が響く。

「ドラゴンは基本的に凶暴で、一般人が出会ったらとにかく逃げろと言われる魔物です。直に触れるなど、食い殺してくれと言っているようなものです」
「わ、分かってるわよ……」

 何度も聞いたドラゴンの危険性を語られ、ミリアはたじろぎながらも頷く。
 ちゃんと分かってはいるのだ。
 だが、幼い頃一度だけ触れた生きているドラゴンの鱗の感触が忘れられない。

 十二年前、外交のため訪れた隣国の皇太子の護衛としてきていた騎士の中に竜騎士がいたのだ。
 竜騎士とはドラゴンを卵から育てることで懐かせ、戦力とした者のことだ。
 世界でも十人に満たないという竜騎士の一人に、当時は多くの者が興味を示した。

 だが、ドラゴンそのものは恐ろしいのか近付く者はおらず、遠目に物珍しげに見ているだけ。
 そんな中ミリアはドラゴンの真っ赤な鱗が美しく見えて、近付いていったのだ。

『触ってみますか?』

 そう提案してくれた竜騎士には本当に感謝しかない。
 あの瞬間、ミリアはドラゴンの鱗に魅せられてしまったのだから。

「はぁ……いっそリュシアンが竜騎士であったなら喜んで嫁ぐのに……」
「お嬢様、それは無茶過ぎます」

 高望みを通り越して無茶だと呆れるウェッジに、ミリアは「言ってみただけよ」と唇をとがらせた。