そうして護衛兼侍従となったウェッジは、密かにミリアの趣味であるドラゴンの鱗収集の手伝いをしてくれている。
 元冒険者の伝手は大いに役立ってくれた。

「本当に助かっているのよ? あなたが侍従になってくれてからは一気にたくさんの鱗を手に入れられるようになったんだもの」

 もう一枚緑色の鱗を手に取り、ミリアは両頬を鱗で挟みつつウェッジに感謝を伝えた。

(ああ……至福)

「役に立っているのでしたら良いのですが……でもそのような状態で言われても全く嬉しくありません」
「まあ。お礼の言葉くらい素直に受け取れば良いのに」
「でしたらせめて頬から鱗を離して言ってください」

 そうすれば素直に受け取ります、と真面目な顔で言われるが、この癒やしのひとときを一秒たりとも逃したくないミリアは「残念ね」と呟いて更に増やした青い鱗に頬をすり寄せた。

「……」

 途端に残念なものを見るような哀れみに満ちた目になるウェッジ。

(主をなんて目で見るのかしら)

 今が私的な時間でなければたしなめているところだ。
 だが、ウェッジは庶民の出ながらそういう部分はわきまえていて、他の目があるときにはしっかり優秀な侍従を演じている。
 何というか、器用なのだろう。色々と。

「はぁ……このファイヤードラゴンの鱗は炎が揺らめくような艶があるわね。ずっと見ていられるわ」

 ウェッジのことよりも今はこの美しさを堪能しようとうっとり見つめる。
 だが、こうして見れば見るほど欲が沸く。
 つい、ポツリとその欲を口にしてしまった。