「つっかれたー!」

 公爵邸の自室に帰ってきたミリアはすぐさまソファーに腰を下ろす。
 淑女らしからぬ行動だが、口うるさい母や侍女頭はいないのだ。自室でくらい自由にさせてもらいたい。

「お嬢様、はしたないですよ」
「良いじゃない、今はあなたしかいないんだから」

 唯一部屋の中にいる年若い侍従にたしなめられるが、ミリアは気にも留めなかった。

 短い茶色の髪に赤茶の目を持つ彼・ウェッジはミリア専属の侍従兼護衛だ。
 ついでに言うと、ミリアにとって無くてはならない存在でもある。
 彼を自分専属にしてくれた父には感謝してもしたりない。

「さあ、ウェッジ。鍵を開けてちょうだい」
「やっぱり行くんですか?」
「もちろんよ。今の私には癒やしが必要なの」

 ハッキリと宣言してソファーから立ち上がると、ウェッジは渋々ながら一つの鍵を取り出した。
 そのまま部屋の隅へと向かい、ただの壁に見える場所を押す。
 すると一部分だけパカリと壁が開き、鍵穴が現れた。

 鍵を開けると隠し通路のドアが開く。

「どうぞ、お嬢様」
「ええ」

 ウェッジのエスコートにより一階ぶんの隠し階段を降りると、ミリアの癒やしが詰まった隠し部屋がある。
 この部屋のドアを開くときはいつもドキドキしてしまう。
 ミリアはまるで恋する乙女の様に頬を染め、ドアノブに手をかけた。