(結婚してもこのように会話のない夫婦になりそうね)

 軽く息をつきミリアは赤褐色の紅茶が揺れるのを見つめた。
 元より結婚に夢など見ていない。
 だから仮面夫婦であろうと別にかまわない。

 ……密かな趣味を許してさえくれれば、別に不満はないのだ。
 それをリュシアンに伝えたことはないが、大して反対はされないだろう。

(……まあ、多少引かれるかもしれないけれど)

 自分の趣味が特殊なものである自覚はあるので、ミリアはスッと視線を横にそらす。
 そこで今まで黙っていたリュシアンが口を開いた。

「……また、しばらく遠征することになった」

 薄い唇は耳に心地よい低音ボイスで言葉を紡ぐ。
 だが、やっと話したかと思えば仕事の話とは……。
 ある意味リュシアンらしいと言えばリュシアンらしい。

「そうですか」

 対するミリアも淡々と返した。
 リュシアンは騎士だ。
 しかも対魔物部隊と言われる第三部隊の隊長を務めている。

 第三部隊は定期的に魔物討伐の遠征に行かなければならないことはミリアも分かっていたため、詳しく聞く必要もないと思った。
 リュシアンもそれ以上は何も言わずまた無言で紅茶を飲みはじめたので、この日の会話はその報告のみとなったのだった。