「確かにミリアの前ではその可愛さにいつも緊張してろくに話せていなかったが……」

 整った顔を上げたリュシアンは、青みが強くなった瞳を真っ直ぐミリアに向ける。
 射貫かれそうなほど鋭い眼差しに、ミリアは息を詰め固まった。

「とりあえず、キスするほどなのだからミリアはドラゴン姿の私は好きなのだな?」
「え、ええ。そうですわね」

 確認に対し、失礼かもと思いつつ正直に答える。
 好きではないと言ったばかりなのに、いまさら人の姿のリュシアンも好きだとは言えない。

「くっ……ドラゴンに負けていたとは……」

 悔しげに唸ったリュシアンは、だがすぐに気を取り直しミリアの手を取った。
 麗しい顔が真剣味を帯びてミリアの翡翠の瞳を見つめる。

「いいだろう。これからは恥ずかしがらずに愛を伝えていくことにする」
「へ? あ、愛!?」

 無愛想でしかなかった婚約者の豹変ぶりには戸惑いしかない。
 いまさらそのようなことを言われても困る。

 大体リュシアンがドラゴンの姿にもなれるという時点で、ミリアとしては他の男になど興味は無いのだ。
 このまま結婚し、たまにでいいからドラゴン姿になって撫でさせてもらえば十分幸せなのだが……。

「ミリア、私は君を愛している。必ず幸せにしよう」

 ギュッと握られた手に、ミリアはときめきよりも困惑を覚える。

(私、ドラゴンと触れ合えればそれだけで十分幸せなのですけど!?)

 生きているドラゴンに触れるという夢が叶うと同時に、突然愛情を示し始めた婚約者に戸惑うミリアだった。

END