「離さないなど……まるでリュシアンが私のことを好きだと言っている様に聞こえますわ」
「え?」

 ミリアの言葉に場の空気が凍った。
 まさか自分の言葉でこのように張り詰めた空気になるとは思わず、ミリアは戸惑い言葉を重ねる。

「え? だって、私たちの婚約は親が決めたものではありませんか。他に良い相手もいないから婚約を続けていただけなのではないのですか?」
「……」

 事実を口にしただけなのに、リュシアンは頭を抱えて項垂れる。
 そのまま目だけをミリアに向けると、唸るように問い掛けてきた。

「……つまり、ミリアは私のことが好きというわけではない、と?」
「え? 数ヶ月に一度しか会わない上に、会っても無愛想な顔で一言話すかどうかという相手をどう好きになれと?」

 思わず正直に答えると、リュシアンはさらに頭を抱え項垂れた。
 状況が分からず周りを見ると、ウェッジと家令が哀れみの目でリュシアンを見つめている。

(え? まさか本当にリュシアンは私のことが好きなの?)

 そのようなそぶりなど一度も見たことがなかったので戸惑いしかない。
 とにかく一度落ち着こうとカップに手を掛けようとしたとき、項垂れたままのリュシアンが低い声で話し出した。