「嫌です! 婚約解消など! 夫がドラゴンになれるなど、なんて素敵な――失礼……ドラゴンになったとしても私は気にしませんので、婚約解消などしなくてもよろしいではありませんか」

 呪いで苦しんでいるかもしれないリュシアンに悪いと思い言い直したが、しっかり『素敵』と口にしてしまったので意味は無かったようだ。
 この場にいる三人の男達からの視線が痛い。
 特にウェッジからはものすごく残念なものを見る目を向けられている気がする。

「ああ、そうだな……私も先ほどの様子を見て考えが変わった。婚約解消はしない」

 気を取り直したように、目の前のリュシアンが咳払いをしつつ自分の思いを語り出した。

「ドラゴンの姿を見て恐ろしいと拒絶されれば諦めもつくと思った。だが、ミリアはむしろ優しく触れてくれた……ならばもう手放すことなどできない」

 本当にこれが今まで見てきたリュシアンなのだろうかと思うほど彼は饒舌に話す。
 無愛想だった表情も、少し柔らかくなったように見えた。

「ミリアの幸せを考えるなら私以外の男に嫁いだ方が良いかと思ったが、私がドラゴンの姿でも良いと言うならばもう離さない」

 灰青色の瞳に熱が込められ、鮮やかな青が色濃くなった。
 初めて向けられる熱っぽい視線にミリアは戸惑う。
 おかしい。
 これではまるでリュシアンが自分を想っているかのようだ。