“時価”で請求された飲食代は数万円。
 高い食事だったが、お金を支払った須藤自身はどこか満足気で嬉しそうだった。


 手を握り、同じ家に帰る。


 仕事もプライベートも共にしている優佳と須藤。
 

 端から見れば、どことなく親子に見える年齢差の2人。


 だけど、そんなこと誰が何を思おうが……優佳と須藤には関係無い。




「今日も楽しかったです。優佳さんと一緒に居られて、良かったです」
「私も。先生、ありがとう」


 家に着き、慣れた手付きでポストを開ける優佳。

 中には複数枚のダイレクトメールと、それに混ざる、『須藤優佳様』宛ての郵便物。


「あ、この前応募した懸賞、当たったみたい」
「流石ですね。優佳さんは強運の持ち主です」
「裕孝さんほどでは無いと思う」
「……と、言いますと」


 須藤の大きな背中に飛び込み、顔を埋める優佳。
 ギュッ……と力強く体を抱きしめ、呟くように言葉を継ぐ。


「“私と再会できた”こと。これが強運であることを示す全てだと、思わない?」
「……そうですね。死ぬ寸前まで行った人間が、こうやって結婚までして、大切な人と一緒に過ごせているのですから」


 優佳の頭を優しく撫で、2人共に空を見上げる。
 街灯の灯りしかない家の前では、先程見た三日月の他に、無数の星も一緒に見ることができた。


「……月が綺麗です。だけど、それ以上に……優佳さんの方が綺麗です」
「……あのさ、それ本当にどうにかならない? さっきも言おうか悩んだけど、恥ずかしいんだけど」
「優佳さんが恥ずかしいと、僕は嬉しいです。だから止めません」
「何それ、意味不明なんだけどっ」


 
 会話が自然な2人。こう見えて本当は夫婦だったらしい。
 背が高くて大きいのに、細身で物腰柔らかそうな男性と、小柄で可愛らしいのに、出てくる言葉は男勝りな女性。

 スーツを身に(まと)ったデコボコな2人。

 表では『カップル』と偽り、裏では25歳差夫婦。



 2人だけの穏やかな人生を、ただただ静かに楽しんでいた──……。







月が綺麗な夜に。  終