翌日。
 学校が終わって帰ろうと昇降口を出ると、正門に若宮先輩がいた。

「ねえ、君。えっと、橘さん」

 気まずそうに視線を逸らしているが、私に声を掛けているのは間違いない。
 心の中で溜息を吐きながら先輩に近づく。

「何ですか、先輩」
「あのさ、やっぱり俺たち付き合わない?」

 一昨日までの私だったら飛び上がるほど嬉しいその言葉も、今は何も感じない。
「急ですね。昨日とは大違い」
「いやその……」
「私の父が社長をしていることでも耳に入れましたか」

 ビクッと身体を震わせる若宮先輩。

——当たりか

「すみませんが、お断りします」
「ちょっと……!」

 遠巻きに見ている生徒たちの視線をスルーしつつ正門を通った。

 確かに私の父は所謂社長をしている。
 それも、大手家電メーカー『橘電機』の三代目だ。

 その事実は学校中の全員が知っている訳ではないが、知ろうと思えばすぐ手に入る情報だ。

——やっぱり傲慢な奴でしたよ、冬月さん

 心の中で冬月さんにそう言っていると、足は商店街に向かっていた。
 いないとは思いつつも、『古本屋・忘れな草』のあった一角に向かってみる。

——あった。……なんで?

 昨日一旦は消えたはずなのに、再びアンティーク調の建物が現れていた。
 疑問が頭を巡る中、足は勝手に『古本屋・忘れな草』に向かう。

 カランカラン、とベルを鳴らしてドアを開けると、箒で床を掃く冬月さんと目が合った。

「これは……」