カランカラン、とドアに付いたベルを鳴らし店内に入る。

 暖かな空気とコーヒーの匂いが私を包む。
 中は仰々しい本棚がいくつかと、西洋風のソファーと机もいくつかある。
 そして一角には日本らしい掘りごたつまで。

 和洋折衷の内装は、明治時代を彷彿とさせる。

「いらっしゃいませ」

 不思議な店内を見渡していると、店の奥から若い男の人が出てきた。

細身の身体に白シャツにズボンという清潔感のある服装の上から紺色のエプロンを纏い、艶のある黒髪はセットされておらず、サラサラと揺れていた。

年は私より1、2歳上といったところか。
穏やかそうな印象の目元と対照的に、瞳に光はない。

「店主の冬月です。どうぞお掛けください。こたつ、温まっていますから」
「あ、橘です。……どうも」

 勧められるまま掘りごたつに足を通すと、自分の足がとてつもなく冷えていたことに気づいた。

「えっと、このお店っていつ出来たんですか?」

 そう聞くと冬月さんはニコリと笑みを浮かべた。

「ここは……傷ついた人だけが辿り着ける、心を癒す古本屋です。ですから、『いつ出来た』というものではありません。強いていうなら……あなたが必要とした時、でしょうか」

——傷ついた人……

 砕け散ったブラウニーがフラッシュバックする。

「コーヒーにしますか?紅茶もありますよ」
「えっと、紅茶で……」
「それではミルクティーにしましょうか」

 冬月さんはそう言って奥に下がって行った。
 店内もそうだが、冬月さんもミステリアスな印象が拭えない。