「どこから話したらいいのか……。俺は半分幽霊みたいなものなんだ」
「幽霊?」
 
 思わず冬月さんの足元を確認するが、足は鮮明にある。

「ははは。足はちゃんとあるよ。なんていうのかな、今の俺は仮死状態なんだ。生死の境をさまよっている。市立病院に行けば俺の肉体が寝ているよ」

 いつか見た医療系ドラマを思い出す。
 冬月さんは今、所謂“眠ったまま”なのだろう。

「どうして……」
「ちょっとね」

 冬月さんは、それ以上自分がそうなった経緯を話そうとしなかった。

「それで、さ迷っている間にここの先代に出会ったんだ。一定条件下の仮死状態の人がここの店主になって、10人の傷ついた人の心を癒すと、この先の生き続けるかやっぱり死ぬかが選べるんだって。で、君が10人目ってこと。正確には9人目も君なんだけど」

 「失恋の時の君が9人目だ」と言いながら再び本棚にはたきをかけていく。

——なるほど……

 冬月さんの説明に頷きながらも、私はどこか釈然としなかった。

「でも……選べるなら、大体の人が生きるんじゃ……あ」

 冬月さんは困ったように笑った。

 不慮の事故や病気で仮死状態になった人は、大抵生きたいと思うだろう。
 それでも死ぬ選択肢があるということは。

 一定条件下の仮死状態の人、の“一定条件”は何なのか。

——そういうことか

 冬月さんは自殺しようとして——……失敗したんだ。