「お前、見た目は変だが、中身は案外まともなのだな」
「え? それって、褒めているの?」
「あぁ、そう聞こえないか?」
「う~ん、褒められたような気はしないけど、貴方が笑ってくれたからホッとした!」

 少年の様子を見る限り人を呼ぶ気配はなさそうで、通報の危機は一旦去ったみたい。
 とりあえず、よかった……。

「それで、貴方のお悩みは解決したの?」
「あぁ、一応。仕方ないな、今回は見逃してやるとしよう」

 悩みが消えたのか溌剌(はつらつ)と笑う少年につられて私も微笑んでいると、遠くからゴーンゴーンと王宮見学の終了を知らせる鐘の音が鳴り響いた。

 大変! このままだと置いていかれちゃう!

「私、もう行かなくちゃいけないの!」
「おい、ちょっと待て! お前、名前は?」
「私は──」

 名乗ろうとして、私はとっさに口を(つぐ)んだ。

 こんな身なりで王宮の庭園にいるなんて、どう考えても褒められたことではない。
 ただでさえ野蛮令嬢と呼ばれているのに、そこに今日の醜聞(しゅうぶん)まで加わったら、いったいどんな噂を立てられてしまうのか……。

 ここは本名を告げず、お芝居で見た決め台詞を言いましょう。