クライン王国の(はず)れにあるオルティス伯爵家の長女として生まれた私、ジュリエ・オルティスは、王都から遠く離れた田舎の領地で穏やかな日々を過ごしていた。
 しかし、十四歳の時に突然届いた一通の書状をきっかけに、私の運命の歯車は大きく狂いはじめてしまう。

「ジュリエ、お前に縁談の書状が来たよ」

 父のもたらした突然の知らせに、リビングで刺繍(ししゅう)をしていた私は「えっ?」と驚いて手を止め、ひとつ年下の弟ディランも弾かれたように本から顔を上げた。

「社交界デビューもまだの姉さんに縁談? 早すぎるんじゃないの?」
「確かにそうだが、相手は格上の侯爵家だ。せめて顔合わせくらいはしなければ。我が家から理由もなく断るわけにはいかないのだよ。すまないな、ジュリエ。理解してほしい」
「謝らないでください、お父様。私は平気です」

 いきなりの見合い話に驚きはしたけれど、貴族令嬢として生まれた以上、家のために嫁ぐのは宿命のようなもの。

(どうかお相手が、よい方でありますように……)

 私はそう祈りながら、オルティス領を出発して馬車に数日揺られ、初顔合わせの舞台となる王都に到着したのだった。